密会(クリスマス企画)
渡されたマグカップを両手に持って、透耶はひっそりと息をついた。 座りなれないソファ。 見慣れない部屋。 そして、何度も会ったけど話したのは数えるほど、という彼。 もし二人だけで会っていると知ったら、彩はどんなに怒るだろう。そう考えると溜め息の一つや二つ漏れてしまう。 覗き込んだコーヒーに映った自分の顔が、思いのほか緊張していることに、透耶は苦笑してしまった。「砂糖とミルクを忘れてました」「ブラックでも大丈夫だよ」 そう言うと、人の良さそうな彼は困ったように笑った。「ダメですよ、胃が弱いって聞いてますから。ミルクくらいは入れましょう」 彼の手が透耶の手からマグカップを奪っていった。間近で見た彼の指が、意外と大きくてしっかりしていることに気がつき、透耶は少しドキッとしてしまった。 キッチンへと戻っていく彼の背中を見ながら透耶は不思議な気分になった。「なんか、お兄ちゃんみたいだ」 年から言えば透耶の方が上なのだが、包容力のありそうな彼を見ていると、『お兄ちゃん』という感じがした。 弟も欲しかったが、兄にも憧れていた。 羨望の視線で見つめている自分に気付き、透耶は慌ててその考えを打ち払った。 ほんのりと赤くなった頬を誤魔化すように、透耶は渡されたマグカップに口をつけた。ブラックコーヒーからカフェオレになったそれは、温かく甘く身体の中に染み渡った。「透耶さん? 彩くんには今日のこと話してないですよね」「あ・・・うん、もちろん」 何でも透耶のことを把握したがる彩に、今日のことを隠すのは正直楽じゃなかった。けど、どうしても内緒にしておかなきゃいけなかった。「あんなことされた仕返し、したいって言ってましたもんね」『あんなこと』と言われて、あのときの恥ずかしさと見られた居たたまれなさを思い出した透耶は、真っ赤になって黙りこくってしまった。「すみません、そんなつもりじゃ―――」「いいよ。でも、仕返しって言うか・・・」「『仕返し』ですよ。いつもこっちは振り回されてばかりなんですから、少しは向こうもハラハラして欲しいと思いませんか?」 悪戯っぽく微笑まれて、透耶は思わず吹き出してしまった。 まさか、人のいいこの人がそんな意地悪なことを考えているとは思わなかった。「確かに。秘密の一つや二つ持ちたいな」 立場は違うが、同じ境遇の二人。 苦労話は共感できるところがあるのだろう。 初めての部屋、と緊張していた透耶もいつの間にか声を立てて笑うまでにリラックスしていた。「まだあの子たちは子供ですから。『子供は子供らしく、子供同士で』ですよ」「そうですね―――亮さん」 見詰め合った二人は、秘密の笑みを交わした。クリスマス企画に向けての序章といったところです。この二人がもしや「浮気?!」と驚いていただけると嬉しいです悪巧みの似合わない二人が何を考えてるは後々。追記!!いい加減と私をなじってください~。おにいちゃんのお名前を勘違いしておりました。「透耶(とおや)」なのに「紘夢(ひろむ)」と・・・。これでは彩が浮気したことに。ダメだなぁ、もうちなみに紘夢さんは「かみんぐあうと」の和哉さんの秘書でした~。