世界人口デーと「アイヌ神謡集・序」
■人口抑制のための技術や規制や政策がどれだけあっても、■人は生殖をやめようとしない。2050年までに地球上には90億の人間が溢れ、二酸化炭素を排出し、プラスティックごみを生み出し[日本語版記事]、カロリーを消費する。人口爆発が心配される中、人口が減る、少子化が問題だといい続ける日本。少子化、上等!!これまでの人口が多すぎたのだ。明治5(1872)年日本の人口は、34,806,000人。今の3分の1。防衛と徐々に増える人口に、新政府は、北海道で開拓をすることを進めた。 自然と共に生きていたアイヌの悲劇がそこから始まった。先日行った北海道でアイヌの女性、■知里幸恵のアイヌ神謡集・序文■を改めて読んだ。そこには、アイヌの暮らしや文化が和人によって消えてゆくさまを悲痛に訴えていた。同じように、アイルランドなどの移民によって、北アメリカのネイティブ・アメリカンの文化が無くなっていく悲劇もある。人は、その地で食べていけなくなると、他を「開拓」する。そこには、他の人が住んでいても、遠慮をしていたら、生きてゆけない。 人口が増えるとは、そういうことだと思う。7月11日は、■世界人口デー■■アイヌ神謡集・序 ■その昔この広い北海道は,私たちの先祖の自由の天地でありました.天真爛漫な稚児の様に,美しい大自然に抱擁されてのんびりと楽しく生活していた彼等は,真に自然の寵児,なんという幸福な人だちであったでしょう. 冬の陸には林野をおおう深雪を蹴って,天地を凍らす寒気を物ともせず山又山をふみ越えて熊を狩り,夏の海には涼風泳ぐみどりの波,白い鴎の歌を友に木の葉の様な小舟を浮べてひねもす魚を漁り,花咲く春は軟らかな陽の光を浴びて,永久に囀ずる小鳥と共に歌い暮して蕗とり蓬摘み,紅葉の秋は野分に穂揃うすすきをわけて,宵まで鮭とる篝(かがり)も消え,谷間に友呼ぶ鹿の音を外に,円(まど)かな月に夢を結ぶ.嗚呼なんという楽しい生活でしょう. 平和の境,それも今は昔,夢は破れて幾十年,この地は急速な変転をなし,山野は村に,村は町にと次第々々に開けてゆく.太古ながらの自然の姿も何時の間にか影薄れて,野辺に山辺に嬉々として暮していた多くの民の行方も亦いずこ.僅かに残る私たち同族は,進みゆく世のさまにただ驚きの眼をみはるばかり.しかもその眼からは一挙一動宗教的感念に支配されていた昔の人の美しい魂の輝きは失われて,不安に充ち不平に燃え,鈍りくらんで行手も見わかず,よその御慈悲にすがらねばならぬ,あさましい姿,おお亡びゆくもの……それは今の私たちの名,なんという悲しい名前を私たちは持っているのでしょう. その昔,幸福な私たちの先祖は,自分のこの郷土が末にこうした惨めなありさまに変ろうなどとは,露ほども想像し得なかったのでありましょう.時は絶えず流れる,世は限りなく進展してゆく.激しい競争場裡に敗残の醜をさらしている今の私たちの中からも,いつかは,二人三人でも強いものが出て来たら,進みゆく世と歩をならべる日も,やがては来ましょう.それはほんとうに私たちの切なる望み,明暮祈っている事で御座います. けれど……愛する私たちの先祖が起伏す日頃互いに意を通ずる為に用いた多くの言語,言い古し,残し伝えた多くの美しい言葉,それらのものもみんな果敢なく,亡びゆく弱きものと共に消失せてしまうのでしょうか.おおそれはあまりにいたましい名残惜しい事で御座います.アイヌに生れアイヌ語の中に生いたった私は,雨の宵,雪の夜,暇ある毎に打集って私たちの先祖が語り興じたいろいろな物語の中極く小さな話の一つ二つを拙ない筆に書連ねました.私たちを知って下さる多くの方に読んでいただく事が出来ますならば,私は,私たちの同族祖先と共にほんとうに無限の喜び,無上の幸福に存じます. 大正十一年三月一日 ■知里幸恵■■父の麦わら帽子余滴:銀の雫降る降るまわりに■・・・・・・・・・・・・・・・・ にほんブログ村・・・・・・・・・・・・・・・・