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カテゴリ:医療報道
久々に新聞記事より抜粋です。

記事:毎日新聞社【2008年5月14日】
医療ミス:市民病院で62歳男性、意識不明に 示談成立、院長が陳謝--大津 /滋賀

 大津市民病院(大津市本宮、三澤信一院長)は13日、昨年7月に男性のがん患者(62)が呼吸困難に陥った際、処置が遅れて意識不明になるミスがあったと発表した。市が患者側に4764万円の損害賠償を支払うことで示談が成立し、16日の臨時議会に議案として提案する。同院の医療過誤の賠償議案は昨年12月議会、今年2月議会と続いており、三澤院長は「市民の医療に対する信頼を大きく損ねた」と陳謝した。
 同院によると、この患者は昨年7月11日、右あごの下の腫ようを手術し、手術中に、だ液腺がんと診断されたため、周辺部も切除。同夜、手術跡に血がたまり、耳鼻咽喉(いんこう)科の男性医師(48)が再手術しようとしたが、患者が呼吸困難になり、気道確保に口から管を挿入しようとしたが、時間がかかったため、脳が酸素不足状態になった。結局、胸を切開して気道を確保。たまった血も除いたが、患者は意識不明に陥った。がんも再発、抗がん剤で治療を続けているという。
 三澤院長は記者会見で「ベテラン医師が執刀したが、血が気管を圧迫して狭まり、処置が遅れた。再発防止に全力を挙げる」と話した。【鈴木健太郎】


 身につまされる事故です。いつもhead&neckも同じような分野の手術をしており、実際に術後出血で危険な目にあったこともあります。自分自身の経験は以下のようなものでした。

 甲状腺がんで甲状腺亜全摘と頚部郭清術を行い、手術終了夕方5時。深夜12時に病棟よりコール、「患者さんの首が腫れています」⇒急いで病院に駆けつけたのがその5分後、すでに患者さんは起座呼吸(苦しくて横になれない状態)、頚部ドレーン(血を抜く管)は凝血。その場で局所麻酔をして開創、血腫除去すると約300mlの凝血塊が噴出。開いた首の中に手を突っ込んで止血したまま他の医師も口頭で看護師に緊急招集かけてもらい、手術室へ搬入、止血術をして閉創・・・

 自験例では、何とか事なきを得ましたが、一歩間違えば上記の新聞記事と同じですね。head&neckは病院の近くに住んでいて、その日は家に居たこと、病棟の看護師さんが早く見つけてくれたこと、更には他の医師に連絡がついてすばやく再手術ができたことなど、どれをとっても幸運であったとしか言いようがありません。手術をすると術後出血の可能性は常に付きまといますから、今後も似たような経験が出てくるでしょう。
 上の記事には多々不勉強が目立ちます。
「手術中に、だ液腺がんと診断されたため、周辺部も切除。」・・おそらく術中迅速診断で癌が検出されたものと思います。この場合、即座に頚部郭清という手術を追加しなければ癌の再発率は上がります。もともと唾液腺癌は予後があまりよくないので、出来る限りその場でたくさんの組織を郭清して後療法をすべきであり、このことは現在癌が再発していることからも納得がいきます。つまり、この医師はその場で癌と診断できた以上は可能な限り治癒せしめる方向へ持ってゆこうと努力したと考えられます。
「同夜、手術跡に血がたまり」・・自然に溜まったような書き方をしてありますが、おそらく術後出血です。頚部は血管の走行が複雑で、腹腔のように空間も無いため、少し出血すると気道を圧迫して呼吸困難を起こします。頚部郭清のような癌の治療では常にこの可能性があります。
「患者が呼吸困難になり、気道確保に口から管を挿入しようとしたが、時間がかかったため、脳が酸素不足状態になった。結局、胸を切開して気道を確保。」・・おそらく、手術室に行って全身麻酔をかけようとした際の出来事と思われます。胸を切開というのはおそらく気管切開のことでしょう。

 すべては、ぎりぎりの状況での出来事です。もちろん、不幸な転機に陥った患者さんにはそれなりの補償ができることは良いことなので、補償額についてやその是非については異論はあまりありませんが、気になるのは
「呼吸困難に陥った際、処置が遅れて意識不明になるミスがあった。同院の医療過誤の賠償議案は昨年12月議会、今年2月議会と続いており、三澤院長は市民の医療に対する信頼を大きく損ねたと陳謝した。」
という部分です。この事故は医療ミスや過誤ではなく合併症と捉えるべきです。合併症というのは、医療を行う上で、いかに気をつけてもある一定の割合で起きてしまう予想外の障害です。合併症については補償はすべきですが、まるでこの医師のミスであったかのような院長の謝罪とこの報道の表現にはとても納得のいくものではありません。(ただ、良く読むと院長が「医療ミス」と発言しているかどうかは不明です。恣意的に毎日新聞が表現を曲げている可能性もあります)

 まだまだ、医療者とマスコミ、一般の方の認識の間には埋めがたい乖離があると思うのでした。


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最終更新日  2008.05.20 22:41:51
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