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臨床の現場より

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 私たちの大学の医学部は、2年生の夏休みの明けた頃から解剖学実習が始まります。当時は、大学に入学してしばらくは医学と全く関係のない一般教養の講義が続いて、ややモチベーションが低下したころに、やっと医学の基礎中の基礎ともいうべき領域の勉強が開始されるとあって、否応なくやる気に満ちたのを覚えています。彼女の方も、時期を同じくして現場の実習に出始め、お互いにその日の出来事を話するだけで夜は更け、気がつけば2人で椅子に座ったままうたた寝してしまい、朝目覚めると肩に掛かっていたタオルケットと目の前にメモと共に軽い食事が準備されていて、彼女は先に看護短大に登校したあとなんてこともありました。
 彼女はもともと関東の出身で、看護婦(現在では看護師といいます)志望のために大学を受験し家をでてきたのですが、実家の方に戻るという制約もなく、そのままこの近辺の病院に就職するつもりだと言っていました。私も実家は関西で開業医ですが、すでに医学部に入学していた3歳上の兄が居り、特に帰る必要の無い身でした。もちろん、つきあい始めたころからそんな未来まで見据えていた訳ではありませんが、いろんな条件も含めた上でのお互いの相性を考えるとこの上ないパートナーになり得ることを、二人とも漠然と考えていたような気がします。それぞれの家族のこと、家のこと、実家にいるペットのこと、幼なじみの友達、全てを共有するかのように話をしました。

 学生の身で贅沢はできませんでしたが、二人でこつこつとバイト代を溜めて、あちこちに旅行に行きました。現在の様にインターネットは発展しておらず、調べ物はもっぱら本屋です。あらかじめここに行きたいと考えている場所をそれぞれガイドブックで調べると全く同じだったりして、目を見合わせて笑うこともありました。旅行とは、行っている最中と同じくらい計画しているときが楽しいのだという感覚は彼女に教わったのです。そうして、計画を練ってから旅に出て、計画通りに行かなくても結果として楽しい時間を過ごせれば旅行は成功でした。目当てのレストランが閉店していたり、お店が無かったりしても、二人で居れば楽しかったのかもしれません。

 冬が終り、春の息吹が感じられる頃に、暗雲がじわりと近づいてきました。

次回に続きます。





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最終更新日  2010.09.11 21:28:36
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