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カテゴリ:物語
3-2
その日のことをはっきり覚えている。とくにマリエの腕の感触は。 マリエの髪を切るということで、わたしと管理ロボット(理事)の考えは一致していた。 ハサミを持って管理ロボットといっしょに、マリエが待つ談話室に向かった。管理ロボットは念願だったマリエの頭を短くできるということで、なんだかウキウキしているように見える。ロボットの精神構造はどうなっているのかという考えがわたしの頭に浮かんだ。 わたしたちが談話室に入ると、マリエの頭が少し動いた。長い髪というより大きな髪が、この少女の存在そのもののように思えた。髪の毛のおばけ、そういいたくなるような。 できるだけ平静を装ってわたしは身を固くしているマリエに優しく語りかけた。 学校の行事として、J地区に行く計画があるという話をした。かたくな態度をとっていた彼女はその話に瞳を輝かせた。黒い髪におおわれた白い顔にある黒い瞳は年齢とは関係なく魅力的であった。わたしはその顔を臆することなく注視しようとした。意識しないではいられないその顔は、ロボットなんかではないとわたしにいっているようであった。 席をあけなさい。マリエの正面に座っていたわたしに、斜め後ろの管理ロボットから声がした。いつものロボットの声ではなく、理事そのものの男の声である。わたしはロボットに席を譲った。 ロボットがマリエをなめるように見ている。理事が生の映像として見ているのだろう。マリエはこわばってまた下を向いてしまった。 ロボットが話し始めた。 「学校としてCクラス全員で社会勉強のために、J地区に行くことになったのです。もちろんあなたも参加できる」 「ただし、その髪型のままでは学校から許可がおりない。あなたには校則に従って髪を切ってもらわなくてはなりません。いいですね」 マリエはしばらく沈黙していたが、やがて顔を上げてえ小声で言うのです。 「わかった。おうちに帰ったら、ミマナに切ってもらう」 「それはだめです。学校が納得する長さに、ここで切ってもらいます。あなたはすでに校則に違反しているのですから」 管理ロボットはわたしの方を見た。 「ジェームス先生お願いします」 このとき、部屋の壁の色が灰色からピンクに変わったのを憶えている。 マリエは立ち上がろうとした。 (つづく) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021.05.15 05:05:27
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