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カテゴリ:物語
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こうして思い返してみると、そもそも管理ロボットは学校のホストAIとつながっている。そこからの指示で動く、われわれ教師も似たようなものであった。管理ロボットには危機管理プログラムが組み込まれている。地震や災害のときにどう対応するか、また不審者とみられる人物を発見したときはどう対処するかというようなことである。それらは学校のホストAIの指示に従って動くことになっている。ただし危険のレベルが高くて、一刻の猶予もないときは、管理ロボットの判断に任せられる。そうプログラムされているし、それなりの武器も備えているはずである。 あのとき、マリエとにらみ合った管理ロボットには、この少女が危険人物として映っていたのだろう。校則にはまったく従わない、さらには識別コードも体内に埋め込まれていない。ロボットが学習していくなかで、この少女が危険人物であるという認識のレベルがドンドン上がっていき、ついには自身で攻撃すべきだというレベルに達したのであろう。 「ジェームス、ロボットを止めるんだ」 管理ロボットから出ている理事の声が終わらないうちに、マリエの髪の毛からチリチリと焼けるにおいがした。 さっきまで笑いを含んでいたマリエの顔が恐怖へと変わった。小さな炎はが髪の毛のなかで拡がっていった。 「やめろ、生徒を傷つけるな」 わたしは叫んだ。 「わたくしは、校則違反の生徒の髪の毛を切っているだけよ、ジェームス先生あなたができないからわたしがやっているだけ、あなたに止める権利はないわ」 わたしはマリエのからだを抱きしめて、必死で守ろうとした。わたしの背中にも容赦なくレーザー光線が当てられた。わたしは背中に錐でもまれたような痛みを覚えた。わたしは痛みをこらえマリエを抱えて、管理ロボットに体当たりした。ロボットは思いのほか弱くて、よろけた。廊下に出て、そこでマリエを抱きしめるようにして髪の毛についている炎を消した。 「だいじょうぶか、救急車だ」 わたしはマリエの細い腕を握って、その顔を覗き込んだ。その目で見返されたとき、わたしはマリエを思い切り抱きしめたい衝動にかられた。 「先生の背中燃えている」 わたしはその言葉で、我に返り背中に熱さと痛みを感じた。 わたしのその日の記憶はそこまでである。 背中のやけどで、1か月近く入院した。公傷は認められたが、騒動の責任はわたしにあるということで、免職になったのである。そして、あっさりと妻にも離縁された。収入バランスが崩れると一緒に暮らしている意味はないということ。世界はアルゴリズムによって記述されている。教職の職を失くしたわたしは身分的アルゴリズムがそうとう低くなってしまった。いまはこの風俗店で働いているのである。あれからマリエがどうなったのかまったくその消息は知らない。この狭い部屋の低い天井見つめているとマリエの顔が浮かんでくるのもなさけない。 (つづく) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021.05.23 00:00:15
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