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カテゴリ:物語
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なぜ、そんな特殊な人間が存在するか。 マリエが発見された場所は、30年前の戦争で使用された核兵器によって放射能汚染された地域であった。とくにこの辺りは汚染がひどくて、とても人が近づけるようなところではなかった。マリエはAIで組織されている中央情報管理本部のパトロール隊によって発見され、捕獲された。 本部に連行されたマリエはAIによって調べられることとなった。 人間ならそんなところで生きていられないだろうと、精巧なロボットではないかと疑われた。しかしそれはすぐに人間100%であると判明した。しかし被爆していない。長時間ここにいたわけではないことになる。 つぎに疑うべきは、この少女は異星人ではないかということである。地球以外に有機物が存在する星があることは判っている。AIによるその研究は進んでいる。人間と同じような知能レベルの生物がいる星がどの程度近くにあるかまだ分かっていない。そのような星があって、人間という生物が住むこの星に、人間に模した有機物を送り込んできたのだ。この子は宇宙人と考えるべきか、しかしその証拠は何も見いだせない。 あるいはハッカーによる中央情報管理本部に対する仕掛け、そういったことはよくあるが、こんかいのことはそういったものとは質が違う。 また人間が考えそうなことでAIにとって厄介なのは、(霊)という存在だ。原爆によって一瞬にして亡くなったひとが、自分は死んだのだという自覚がないために、その(霊)というものが生きていたときの姿で現れるということだ。それをAIが証明できるという考え方だ。あの原爆以後、そういったものが流行った。AIはバーチャルなものはつくり出せても、(霊)の存在を証明することはできない。この子が(霊)の変身存在だとはとてもいえない。 最後に残ったのがタイムシフトした人間がたまたまそこにいたということである。これがAIにとっては盲点なのである。 いまに生きているわたしたちは映画のバックトゥザフューチャーやアニメのドラえもんに出てくるタイムマシンで、過去や未来に行くことができるように思っている。これは信じていないとしても願望として人間にはある。AIにはそんな信心も願望もない。地球上の時間と宇宙の時間に歪み(差)があるのは数式として解っている。しかし、それが人間の存在の変化とは結びつけられていない。 だから少女マリエが100歳を超えていることがわからない。108歳の少女という記述が誤謬なのか。108歳は存在する。8歳は存在する。108歳の老女は存在する。8歳の少女も存在する。しかし108歳の少女が存在するというアルゴリズムは組み込まれていない。 ということで、AIは行動パターンを学習するために猫を飼うように、この少女を飼うわけにいかない。取り入れるべきデータは取っておいて、とりあえず人間型AIロボットWM322(通称ミニニ)に預けたのである。 (つづく) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021.06.09 02:14:09
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