032881 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

わたしのブログ

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

2021.06.20
XML
カテゴリ:物語
3-9
 たしかにAIにとっては人間の心というのはめんどうな問題である。しかし、人間らしくみせる外形、見た目の問題、これも厄介なことなのである。人間の外形に似せたロボットはたくさん存在するのは事実である。しかしそれはみんな人間に似たロボットということである。ミマナがマリエに見せていたのも、そういったものだった。
 ミマナは、人間の顔に関する情報をPAIで集めた。楽しいときの顔、悲しいときの顔、怒ったときの顔、そういった顔を3Dプリンターを使って作った。その皮膚でできたようなお面を、自分の顔に被せてみた。しかしそれはそういった表情の顔というだけで動かすことはできなかった。表情を変えるたびに、お面を取り換えるわけにもいかない。その被った皮膚そのものを動かして、表情というものを作らなければならない。それには細やかな動きが必要である。普通のAIロボットにはそこまでの動きはない。ロボットはモータとシリンダがメインで動いている。人間の指先のような細やかな動きはできないし、顔の表面を動かす筋肉のようなものもない。そんな精密なロボットは必要とされていない。ミマナが人間のようにふるまいたいのなら、自分自身でそのようにつくりあげるしかないということである。ミマナはPAIがインターネットから引き出せるあらゆるデータを使って、人間の表情というものを作ることに挑んだ。皮膚となるコロイドのしたに薄い膜を作ってそこに液体を入れたり抜いたりして動かすことを試みた。小型のポンプで圧力を上げたり下げたりしてそういった細やかな動きをさせるのである。
 ミマナとPAIは人間でいうなら寝食を忘れて作業に没頭していた。そもそもロボットには食べることも寝ることも、トイレに行くことも必要ない。この作業を始めてからどれぐらいの年月が経過したのだろうか、AIロボットにも時間というものはある。あらゆるデーターの収納は時間軸によってなされている。コンピュータでは時間が主で空間が従である。コンピュータの時間とはデータ処理速度のことである。人間のように、成長と怨みと後悔の時間があるわけではない。
 人間でないミマナは世間というのが分かっていない。引きこもりのような生活をしていても、まったく世間とかかわらないというわけにはいかない。この作業に没頭するあまり、PAIがお金を稼ぐ仕事をしなくなった。収入が激減したのである。さらにいろんな材料や資料を購入するために支出がものすごく増えたのである。どういう形であれ、貯えというものがないと借金生活である。家賃も払えない。さらに、化学物質を作るうえで、変な臭いを発生させてご近所に迷惑がられているのである。そんなことも全然気にしないというか、知らないのである。

 ミマナの周りでは、異臭騒ぎが起きていたのである。それはどうもミマナの家から出ているらしいということである。だいたいあの家にはどんな人が住んでいるかわからない。姿を見たことがない。いや以前はやたらと髪の毛の多い東洋風の女のこを見たことがある。そういえば最近その子も見なくなった。なにかあやしいことをしているのではないか。警察に通報して様子を見てもらおうか。いやいやそれは大げさだ。町のパトロール隊にまず見に行ってもらおう。この家の管理会社の話じゃ、最近家賃も滞っているというじゃない。
 パトロール隊(町の自主警備をする人たち、逮捕権はない)が、嗅覚AIロボをつれてミマナの家にやってきました。
「やっぱり、異臭はこの家からですね。嗅覚ロボの鼻数値がこんなに上がっている」
 後ろからついてきた町会長をはじめとするご近所のスズメたちに向かって言います。
 みんなは納得顔でうなずきます。
「それでは呼び鈴を押します」
 またみんなに同意を求めるようにいうのです。
 みんなうなずきます。
 ”ピンポーン、ピンポーン”
(誰かが来た、誰だろう)
 ミマナは玄関のカメラの映像を確認します。
 カメラには多くの人が映っているので少し驚きます。
 しかし、落ち着いた声で応対します。声には自信があるのです。
「どちらさんですか、どういったご用件で」
「わたしたち、街のパトロール隊でして、ご近所で異臭騒ぎがありましたので、各お家に異常がないか確認にまわっているのです」
 インターホン越しに答えます。
「この家には異常はありません」
「しかしですね、この嗅覚AIロボの数値がですね、お宅が非常に高いもので、少し調べさせてもらえればと思いまして」
「そのようなことはありません、もしそうだとすれば今後気をつけますので、お引き取り下さい」
 外では少しざわついてる様子であったが、かまわず通話を切ったのです。パトロール隊と近所の人たちは諦めて帰ったのか、再びインターホンが押されることはありませんでした。

(つづく)





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2021.06.20 02:10:03
コメント(0) | コメントを書く
[物語] カテゴリの最新記事



© Rakuten Group, Inc.
X