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カテゴリ:物語
3-11
この物語の主人公であるマリちゃんはどうなったのだろうか。 学校の管理ロボットの暴走により、髪の毛を燃やされるという災難に遭ったマリエは長い入院生活を余儀なくされた。適切な処置は施されたのであるが、背中から首にかけてやけどの跡が残ってしまった。それとあの特徴的な長い髪がバッサリと切り落とされ、今は少し伸びて肩の下あたりまでになっている。 やけどの跡が残ったとはいえ、もう傷は治ったので、本来なら退院してもいいはずである。しかしマリエには帰る家がない。ロボットであるミマナは保護者として認められない。しかるべき落ち着き先が決まるまで、病院にとどまるより仕方ないということである。そこでマリエは外科病棟から小児病棟に移されたのである。その病室は4人部屋で、三つのベットは女の子で埋まっていた。マリエは入り口に近い窓のない一角のベットをあてがわれた。 「マリエ明日からリハビリよ、もう傷は治ったのだから体を動かさなければ、からだなまっちゃうよね」 小児病棟の若い看護婦さんが笑顔でマリエに声をかけてきた。 「腕なんかこんなに細くなって、でもすぐに戻るわよ、若いんだから」とマリエの腕を取ろうとした。マリエは体を強くねじって、それを拒んだ。 看護婦はしかたないねと渋い顔をして病室を出ていった。おとなより子供の方が扱いにくいことが多いのよねと、肩の力を抜いて次の病室へ向かった。 マリエは膝を抱えてベットの上に座っていた。なにかが頭に浮かぶのだが、それが考えとしてまとまることはなかった。フォーカスするものが見つからないので、頭の中はいつもぼやけたような状態であった。そのくせ目だけは前にあるものを強く見つめていた。それがもう癖になっているようだった。 「こんにちは、ぼくトム、マーガレットの友だちだよ」 マリエは少し頭を上げて首を左右に振った。しかし誰も見当たらない。 「驚かしてごめんね。僕が小さいから見えないんだね。ほら、ぼくはここ、君のすぐそばにいるよ」 ベットより低い位置に小型のロボットがいた。マリエはそれを横目で注視したが、目を大きく開けて驚くようなことはしなかった。 またロボットから声が聞こえてきた。こんどはかすれたような女の子の声だった。 「わたしはマーガレット、この窓ぎわのベットにいるの」 窓ぎわのベットのカーテンが揺れたが、マリエはそれを見ていなかった。 「わたしの映像送るから、トムの方見てね」 小型ロボットがタブレットを頭から開いて見せた。そこには病弱そうな女の子が映っていた。 「わたしね、病気で痩せていて、顔にもそばかすが多いから、ちょっと恥ずかしいわ、でもあなたとお友だちになりたいから、思い切ったのよ。あなたお名前はなんて言うの、ちょつとお顔を見せて、トムの方を向いて」 マリエは一切無視して、布団を被って寝てしまった。 「あら、がっかり、でもいいわ、誰だって気分のすぐれないときがあるものね。わたしもよくあるわ。わからないことがあったら何でも聞いて、わたしここ長いから、トム帰っておいで」 ロボットがカーテンの揺れるベットの方にロボット歩きで戻っていった。 マリエは布団の中で目を閉じた。浮かんでくるのはミマナの顔と、ミマナが作ったコーン入りのまずいみそ汁の味であった。あいつもロボットか。 (つづく) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021.06.24 23:46:25
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