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カテゴリ:物語
3-20
きょうも、M先生と話しをしている。 「あたしもうすぐここを出なければならないの、先生と話すようになって元気になったから、もう病人じゃないって、ここを出たら行くところがないから、児童施設に入らなけらばならないって、どういうとこか知ってる」 「知ってるよ、自分も施設にいたから」 意外な言葉が返ってきた。 「ええ、ほんと」 M先生はマリエの顔をチラチラ見ながら、ぼそぼそ話し始めた。 「自分は体外受精で生まれて、ロボットに育てられた。母親は金持ちでね、ただ自分には母親が期待するほどの才能がなくて、施設に売られた」 「え、子供が売られるってことがあるのですか」 子どもが売られるなんて、マリエの頭では考えられなかった。 そんなマリエのおもいと関係なく、またあっけらかんというのです。 「そうだよ、そんなに珍しいことではない。そんな子はいっぱいいる」 マリエには今の世の中というのがよくわからないのだ。それはしかたのないことである。 ロボットという言葉にミマナのことが頭に浮かんだ。 「ロボットに育てられるってどういうこと」 「身の回りのことをロボットがしてくれるということ、赤ちゃんは自分のことは何もできないだろ、普通はおしめをかえたり、ミルクを飲ましたりは母親がやるだろ、それをロボットが代わりにやってくれるということ」 「ロボットに育てられたらどうなるの」 「どうなるのか」 M先生は少しうつむいて考えるふうであった。 「のっぺらぼうかな」 「のっぺらぼう」 「そう、のっぺらぼうだよ」 M先生は口元をゆるめてそう繰り返した。 それからしばらくたった日、病院の事務方の女性がマリエの病室に来て話をしている。 「担当の先生がもう退院できるていうの、よかったね、といいたいところだけどあなたのばあい帰るところがないのよね」 事務方の人はため息をつくように言うのです。 「それでね、よくきいてよ、マリエ、あなたは児童施設行くしかないと思っていたの」 「児童施設に入るんですか、ミマナはどうして来ないんですか、ロボットはだめなの」 マリエはわめくように言った。 「だからよく聞いてて言ったでしょ」 事務の女性は少し声を荒げた。 「ロボットが身元引受人になれるわけないでしょ、だいたいロボットに育てられいたというのがおかしいのよ、…まあそのことはいいからわたしの話を聞きなさい」 少し言い過ぎたかと、マリエの肩をポンポンと軽くたたいて言葉を継いだ。 「あなたのことをリハビリセンタのアルバイトのMが引き取りたいというの、M知っているでしょ」 「M先生ですか」 「先生」 事務の女性は顔の前でハエを追うように手のひらをひらひらさせた。 「あのこはは先生ではなく、リハビリを手伝うアルバイトよ」 「先生ではないのですか」 「あなたから見たら先生に見えるのね」 先生だからリハビリの指導をしているのだとばかり思っていたので、少し驚いた顔になった。 「あのこが引き取るといっても身元引受人ではない、保護者の代行になる人はもっと偉い人がいるの、二人で暮らすわけでもないのよ、あの子のいるシェアハウスに入るということ」 マリエはシェアハウスという言葉の意味も解らないし、話の全体のイメージがつくれなかった。ただ養護施設に入らなくて、M先生ではなくMさんのいるところに入るということだと理解できた。 「Mはあまりはきはきしたとこがなく頼りなく見えるけど、悪いこじゃなさそうだしね、保護者代行もはっきりしているからいいんじゃないの…まあ決めるのはあなただから」 事務の女性は立ち上がり、マリエを見下ろし、どこまで話が分かったのやら、言葉もよくわかっていないようだし、自分の置かれている生活環境も理解できていない。まったくかわいそうなものだと思うが、これ以上は自分の仕事ではない。 「明日までに決めておいてね、児童施設にするかシェアハウスにするか」 そう言い残して、事務の女性は病室をでていった。 (つづく) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021.08.08 03:40:45
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