|
カテゴリ:物語
3-21
どっちにするか決めておくようにと言われたが、どれを食べてもいいよといわれてショーケースのケーキを眺めるほど迷うことではない。全然知らない児童施設を選ぶよりは、先生ではなかったとはいえ親しく話したMさんを選ぶ方がいいに決まってる。そういうことで一年近くいた病院とおさらばである。 首の後ろに手を回して、やけどの跡に触れてみても何も感じない。しかしからだの一部としてそこに在るのである。 青空がまぶしい、おもわず目を細めてしまう。まるで刑務所を出所する映画のワンシーンのようである。この先に希望はない、あるのは不安ばかり。生活のこと学校のこと何も分からない。 ドローンタクシーに乗ってシェアハウスというところに向かっている。横にはあのMさんがいる。男か女かわからないのっぺらぼうのこのおとなについていくしかない。年齢だってよくわからない。頼らなくてはいけないのだろうけど、甘える気持ちになってはいけないと自分に言い聞かす。 なんとなくマンションのようなところかと思っていたら、大きなホテル風の建物の前でドローンを降りた。 「ここがシェアハウス、ここの五階をシェアしている」 Mが玄関のドアの前で手をかざすと、ドアが左右に開いた。マリエは後について中に入った。ちょっと待っていてといって、Mは電子機械の前で何かしている。このフロアーには無人のコンビニとか、クリーニング屋とかがある。美容室もあるのだが、客はいても美容師はいない。すべて機械がやっているのである。マリエはそれを珍しそうに眺めていた。 「お待たせ」 Mはマリエのそばに来て、かがんで話しかけてきた。 「これを手首に付けておいて」 マリエの手首にリンクが巻き付けられた。 「いい、マリエは認証チップがないから、これがその代わりになる。水にぬれても大丈夫だから、絶対になくさないように、あとで説明するけれど、ここにはいろんな大事なものが入っているから、さあ行こう」 マリエはブレスレットを眺めてみた。腕にしっかり巻かれているが特に美しいものではなかった。 エレベーターの前まで来た。エレベーターの扉は薄いピンクの透明であった。 「ここにそれをかざしてみて」 マリエはいわれたとおりに、頭の上にある感応スイッチに背伸びして、それを近づけた。 「届いたね」 降りてきたエレベータのボックスの扉も透明で中の壁はブルーの光照明である。 「エレベーターの壁の色は日によって変わる」 エレベーターを降りて、左右の窓を見る。大きくて、明るい。病院での閉塞感から解放されるような気分である。右側の窓に沿って進み、つきあたりの部屋まできた。Mがドアの横のカガミのようなものの前に顔を近づけるよう促す、言われたとおりにするとドアが開いた。 「よかった、ちゃんと認証されている」 今まで見たこともないような顔で喜んでいる。 中に入ると、だれかがいて、ヤァとあいさつしてくれる。Mが別のだれかとはなしをしている。それからMがなにかを説明してくれてたが、ほとんど記憶にない。疲れがどっと出てとにかく眠たかった。プライベートルームがここだよと言われて中に入ると、ほとんどベットに倒れ込むようにして眠ってしまった。 いろんな夢をみた。目が覚めめてはっきり覚えているのは、ミマナの夢だ。夢のミマナは顔はのっぺらぼうなのだが、体は人間のように柔らかく、ギュッと抱きしめられると、気持ちよかった。目が覚めてもその感触が残った。 (つづく) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021.08.13 15:20:47
コメント(0) | コメントを書く
[物語] カテゴリの最新記事
|