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カテゴリ:物語
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ミマナを追い出したご近所の人たちは、まだ興奮の面持ちでその場を離れない。 「ロボットが人間に化けて生活していたなんて驚きだな、タヌキじゃないだろうな」 笑いながらいうひとがいる。 「所有者はいないのか、いないはずがないだろ」 「それが分からないんだ」 家主の管理会社の社員が答えた。 「所有者がいないなら生け捕りにすればよかったな、人間に化けるぐらいのロボットだから高く売れたかもしれないな」 そうか惜しいことをしたなと、みんな残念がった。 「そんなことは考えない方がいい、後ろにどんな理由がついてるかわらない、さわらぬ神だよ」 年配者の町内会の理事が言った。 「そんなことより、e-sportsの予想でもした方がいいよ」 それはそうだと、もうすぐ始まるe-sports大会の話題になり、この話はおしまいになった。 歩いているミマナの足元はおぼつかない、ロボットの歩き方ではないし、とはいって人間の歩き方でもなく、中途半端に歩みを進めている。行き先が決まってるわけでもなく、ただ追い出されたから歩いている。 この先どうなるかわからないが人目だけはさけようとしている。昼間は使われていない鉄道の橋梁の隙間や、トンネルの影に隠れて、そこで自分の中のAIを整理する。ロボットは命令のプロブラムがないと動けない。ミマナにインプットされた命令プロブラムはマリエの保護と観察であった。それはだいぶ前のものであるが、今も変わっていない。マリエに会うためには人間になることだと自ら作ったプログラムを実行している。 ミマナは橋梁の陰にもたれて、思考回路を動かしている。ロボットも人間ほどではないが、暑さ寒さが苦手である。暑いとどうしても思考回路が鈍くなる。直射日光はさけたくなる。 ミマナはマリエと暮らしていた頃の顔を橋げたに映してみる、そして今の顔を並べてみる。まったく似ても似つかない顔である。人間は見た目で判断する、特に顔で。今の顔ではマリエに会っても、同じロボットのミマナとはわからないのではないか。ミマナの思考回路が今の顔を正解だとしない。 (つづく) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021.08.17 22:40:57
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