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カテゴリ:物語
3-25
窒素ガスで-196度に凍結されたが、破壊されたわけではない。電子回路が低温のため動作しなくなったのである。温度が上がれば元に戻る。仮死状態ということである。動かなくなったミマナを作業ロボットを使って、冷凍ボックスに詰める。下部の荷物スペースに収めて、ドローンは飛び立った。 「しかしひどい顔だったな、女のつもりなのかな」 隊員のAが言った。 「そうですね、ロボットの考えることは分からない」 隊員Bが応じた。 「ロボットが人間みたいに考えるか、だれかが人間にみえるロボットを作ろうとして、失敗したからほっぽりだしたんじゃないか」 「そうですかね、僕らの任務はロボット回収だからどうでもいいですよ、そんなことよりe-sportsの予想でもしましょうよ」 「そうだな、あとは本庁にまかせるだけ」 ふたりはもうじき始まるe-sports大会の話になった。 ミマナは完全に眠ってしまったのか。そうではない。ミマナはWM322という情報管理センターの優秀な職業ロボットである。いろんなプログラムが組み込まれている。ボディーが冷やされて、AIをつかさどるCPUがマイナスの50度より低くなると自動的に温度を上がるようになっているのもそのひとつである。危機に直面した時に、起動するプログラムである。 狭いボックスの中で目ざめてミマナは、次にボディーからレーザー発してボックスを切断しはじめた。 ボックスの液体窒素が漏れて白い煙になった。 「あ、機体から煙が出ている」 隊員Bが叫んだ。 「なんだこれは」 (緊急事態発生) 隊員Aが叫ぶ。 本庁の方でも、映像で確認している。 (液体窒素が漏れている。危険だ!酸素マスクを使え、緊急着陸さす) ボックスから出ようとミマナが暴れている。その上半身をあらわした。けむりにぼやけてその姿を見た隊員たちは、恐ろしい生きものを見たように震えあがった。 ミマナが機体にぶら下がって暴れるものだから、ドローンはバランスを崩しながら河原に着陸した。 ミマナは飛び降りて、ドローンから離れて歩きだした。 ドローンから外に出た隊員Aが声を荒げた。 「憎たらしいロボットだ。逃がすか」 作業ロボットに後を追わせた。足にとりつかせて、足かせにするつもりである。 作業ロボットがミマナの足元に近づいてきた。足に絡みつこうとしたとき、ミマナは振り向いてそいつを蹴りあげた。それは草むらの上に落ちたが、またミマナの方に向かってきた。今度は手で拾いあげた。それはなんとかミマナに絡みつこうと暴れているが、ミマナはそれを手に持って、隊員Aにせまった。その形相にAはひるんだ。まるで怒りの意志を持つ人間のように見えたのである。棒立ちになっている隊員Aに向かって、それ作業ロボットを投げつけた。それはAの体のどこかに当たった。隊員Bはドローンの陰から震えながら見ていた。こんなロボットははじめてみた。悪意を持ったロボットがいるなんて。 (それ以上そのロボットにかかわるな、危険だ。A隊員の看護をしろ、救援ヘリをすぐに出す) ミマナはその場から消えた。危機回避の回路がどうなっているのか。それはロボット自身にはわからない。 (つづく) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021.08.29 01:37:03
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