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カテゴリ:物語
3-26
ミマナは力なくあるいている。液体窒素を浴びせられて、長い年月をかけて作り上げた顔が崩れてしまっている。人間なら心が挫けるところである。いまのミマナの心を想像してみてもせんかたないことである。この時代のロボットでも心というものを持たない。ロボットが経験を積み重ねることによって、喜怒哀楽というものを自ら体内に持つことができるのだろうか、それができるといっても、それは人間がそう記述するだけで、ロボット自身には関係のないこと、人間の都合のいい心をロボットに持たせるだけである。 ロボットは進化して、やがて人間のようになるだろうが、人間の進化の源である私有幻想とヲコ幻想をロボットに教え込むのはむつかしい。せいぜい欲と色である。そのくだらなさにロボットが気づけば、人間は動物園のゲージのなかに押し込められることになる。私有幻想の象徴である神などは消えてなくなるだろう。 この時代、いかなるかたちのロボットであっても、動けるものは通信で管理されなければならない。どういう媒体を使って動かしていようが、最終責任は所有者の人間にある。とくにミマナのような二足歩行ができて外見が人間に近いロボットは管理等級が最上位で、その機能に関するチェック項目は少なくない。その中でも、ロボットが人間に攻撃を加えるというのは絶対に許されないことであって厳しくチェックされているはずである。今回は機動隊員がロボットに重傷を負わされるという傷害事件である。その責任は所有者である情報管理センターが取らなくてはならない。情報管理センターのロボットが人間に対する攻撃力を持っているとしたら大問題である。だれがそんなプロブラムを仕込んだのか、解明しなくてはならない。情報管理センターの管理体制そのものが世間に問われる。 情報管理センターはこのWM322というロボットにPAIを持たせた。コンタクトはこのPAIを通じておこなっていた。そのPAIが借金の形に業者に取られていたのである。それを知らなかった情報管理センターも間抜けなもんである。役所体質といえばそれまでだが。まずこのPAIを業者から取り返すことから、仕事は始まった。ロボットが借金を作ったというのも前代未聞の話である。 裁判なんかで争っている時間はない。業者のいいなりのお金を払ってでも取り返さなければならないのである。 とにかく、PAIを取り戻し、通信を回復しなくてはならない。 (つづく) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021.09.04 05:17:13
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