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カテゴリ:物語
3-28
「大物を釣り上げたじゃないか」 運び込まれたミマナをみてジジイが言った。 ジジイとガキたちから呼ばれているだけあって、そうとうの歳に見える。頭が禿げているのにあごひげが白くて長い。目がしわの中に埋もれて表情がわかりずらい。 「今までみたいなはした金じゃわたせないよ」 年かさのマッシュが言った。ミマナを発見したときはビビッてなかなか近寄ろうとしなかったくせに、こんな時はリーダー風をふかしている。 「いままで持ってきたのはガラクタばかりじゃないか」 ジジイは鼻であしらった。 「だから今までのとは違うだろ、じいさん」 グッチャという少年が食い下がった。 ジジイはミマナのボディーのあちらこちらを調べ始めた。 少年たちはじれてきた。 「もったいぶらずに、いくらで買ってくれるんだ」 マッシュが口をとがらせて言った。 「半端な金じゃ納得しないだろ、いくらなら売る」 言われて少年たちはたじろいた。 年少の子があてずっぽに言った。 「1万ドル」 ほかの少年は、そんなにするわけないだろうと苦笑いをした。 「おお、チビいいせんいってるじゃないか、それで手を打ってやる」 少年たちは驚いて顔を見合わせた。 「欲を出しちゃいけないよ、こいつはお尋ね者のロボットだ。警察がすぐにかぎつけてくる」 「分ったよ、それで手を打つよ」 マッシュがみんなの顔を見回して、あわてて言った。グッチャは少し不満そうな顔をしたが何も言わなかった。 「これできまりだな、金は今すぐ振り込んでやる、確認しな」 ジジイは子供たちに背を向けて、もうミマナのボディを解体しようとしている。 「お前たちも、もう若くはない早くハウスから出なければな」 ハウスとは親に見放された子供たちが共同で暮らしている木賃宿のこと、ここに暮らしている者は短期の仕事にしかありつけないのでレンタルと呼ばれている下層の存在なのである。 ジジイが首を回してマッシュの方をじっと見る。マッシュは目をそらしてうつむいてしまった。ジジイは皮肉な薄笑いを浮かべて、作業に戻った。マッシュは幼いころに人工の手を付け加えられた。母親が高名だというピアニストの精子を買って、それを着床させることに成功した。生まれたきた子をピアニストにしようとしたのは当然のことである。彼女はもう一本手があれば、今までにない世界一の演奏者になれるのではないかと考えて、それを幼い子供に施した。しかし少年は周囲が期待するほどピアノが上達しなかった。それまでちやほやされて育てられた少年は才能がないと見極められと捨てられた。マッシュはその腕を隠している。恥ずかしくて人に見せられない、そう思っているくせに、自分には才能があるのではないか、この人工の手がいつか役に立つときがある。有名になって世間をみかえしてやる。何の努力もしないでそんなことを夢見ているのである。まあレンタルと呼ばれている連中は似たり寄ったりである。 ジジイはロボットの解体を急いだ。警察が来る前に、ボディーは完全に始末してしまわなければならない。 (つづく) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021.09.12 13:01:52
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