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わたしのブログ

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2022.08.14
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カテゴリ:物語
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 わたし……カール・マルクスがこっちの世を去ってもう百年以上にもなる。しかし、あの世でのわたしの居場所はまだ定まっていない。
 わたしがこの世に在るときは、神を否定しておおいに攻撃したことは周知のとおりである。だからわたしは死後に天国に招かれるなんて端から思っていなかったし、だいたいあの世があるなんて考えたこともなかった。まあそのへんが他の哲学者と違うところなのだが。西洋の哲学者は信じる度合いは別にして、神について語るのが礼儀であった。近年で考えても、ニーチェはもちろんのことカントもヘーゲルもそうであった。

 こっちへ来てはじめて天国があるということを知って、わたしはとまどっているのである。
 ここはあの世の入り口。たくさんのバスが止まっている、みんな天国行きのようだ。日帰り温泉のバスのように、前方の窓の角に行き先が示されている。行き先はいろいろある。天国にもいろんな所があるのだと得心した。どれかに乗れるだろう。天国なんか信じていなかったのに、天国に行けることに安心している自分に後ろめたさはある。
 『天国ゆだや郷温泉行』というバスがあった。なんだか懐かしいような気分になったので、中をのぞいてみた。ほう、みんな楽しそうにおしゃべりしているではないか、それに空いている。このバスにしよう。ステップに足を乗せようとして気がついた、足がないのである。こっちの世界では足がない。というわけでバスにもタイヤがない。
 わたしも生きているときは、ずいぶん旅行もしたが、たいがい追われる旅か湯治のためであった。こんなのんびりした旅もいいだろうな、イェニーと二人なら楽しいだろうな。そんな旅はしたことがなかったな。家内はわたしより先に死んだから、このバスで待っていてくれたりして。わたしは勝手な想像をして、嬉しくなってきた。
(つづく)





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最終更新日  2022.08.14 19:12:07
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