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カテゴリ:物語
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「国家、民族、過去が世界中の民衆をおびやかしているというのか、だからわたしはプロレタリア革命を説いたではないか」 「それが逆に、三位一体の強化に利用されたのです。あなたが射程した歴史と富豪たちの歴史とは違い過ぎるのです。かれらが歴史の中でため込んだ富は、あなたが利用したプロレタリアという数のテコをもってしてもびくとも動かなかった。まあ、ランク外のボクサーが世界チャンピオン相手によく頑張ったというとこですかね、つまらんショーにあなたも大衆も夢をみていたのではないですか」 長髪の男はそう言い残して消えた。かわってメガネが現れた。メガネはさっきまでとは打って変わった派手な服を着ていた。薄暗かったまわりが急に明るくなった。 わたしはバスに乗っていた。乗客はわたし一人。バスには派手なデコレーションが施してあった。 「ご乗車ありがとうございます。これから天獄へまいります。天獄に到着するまで、すばらしいあの世の景色を楽しんでください。わたくしこのバスのガイド、メガネです。きょうお乗りくださった皆様ありがとうございます。わたしが案内させていただきます」 皆様といっても、乗客はわたし一人ではないか。 したたるインクは血の匂い、絶望希望入り乱れ、天獄行きのバスは行く。 メガネはガイド風のリズムをつけてしゃべりだした。 国家だ、国家だ、あれが国家だ。 あこがれの丸い玉、ゆがみのない丸い玉、あの世の国家が浮かんでる。 白玉、赤玉、黒い玉、青に黄に緑玉、それから紫、ピンク、ダイダイといろんな色玉が浮かんでる。 よく見てごらんよ、それぞれは単一色じゃなく、いろんな色が混ざってる。 中身は何でできている、民族団子でできている。 かたくて、かたくて、かじれない、その歯がボロボロ落ちますよ、あわててこっちへきなさんな。 ほんとだよ、ほんとだよ、かじっちやだめだよ信じなさい、信じなだめだよ遊べない。 国家だ、国家だ、国家だよ、丸くてかたい国家だよ。 いつからできたのこんなのが、お顔にできたの、あらいやだ、小さな小さな吹き出物、時間がたてば国家だよ、立派な、立派な国家だよ。 軍隊だけじゃない、文化、芸術、紙芝居、ゲーム、工場、刑務所となんでもあるあるこの玉に、みんな仲良く国家だよ。 みんなで丸めて国家だ。一人で丸めて国家だ。みんなを丸めて国家だ。金持ち、貧乏、奴隷がいたら、それが国家だよ。 串に刺さっていれば国家だよ。 歴史に学べというけれど、歴史の串でつつき合い、民族入った国家がつつき合い。 たこ焼きみたいに熱くなり、だれのお口にはいるのか。 メガネの説明とも歌ともつかない天獄案内が続いている。わたしは車窓を眺めていた。たしかに、まん丸い玉が浮かんでいる。玉にはいろんな色が混ざっているようであり、それが美しく見せている。 (つづく) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2022.09.08 23:50:23
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