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カテゴリ:物語
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また、静黙するしかなかった。話し相手がいないのだから、喋ることができない。国家という丸玉を見ているしかない。そこからは死人がポロポロと落ちてくるだけだ。時代の針は動いたのだろうが何も変わらない。国家という名の欲望電車は未来へ向かってはいるけれど、国民は戦場駅でけつを蹴られて降ろされる。そこにあるのは死人の穴だけ、ポロポロとひとは落ちていく、ここから見てると面白いように落ちてくる。 そうわたしも思想という名の欲望の固まりでしかなかったのだ。オールド・ニックその名はわたしにこそふさわしい。だれに使われようが、何に使われようが思想は思想だ。文句のいいよがない。 わたしの書いた『資本論』は富裕層の鼻紙になり、あるいは貧民街のけつ拭きペーパーになって、ひとさまの役に立っているだろう。わたしにありがとうと言ってくれるのはだれだろう、まさかまさかのあのひとか。 天獄とはよく言ったものだ。ここには自由がない。 国家のみなさん、さようなら、国家をお大事に、いつまでもそこにありますように。 (終わり) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2022.10.24 00:10:04
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