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カテゴリ:物語
㉕
・・・甲羅の中でkamekouの声が響いている。俺は頭が痛くてよく眠れない。おまけに体は寒いのに、首から上は汗をかいている。俺はぼおぉーっとした頭で聞いた。・・・ (snake) その玉手箱はどうなったんだ。男は開けたのか、だいたい開けないでというのを渡すのもどうかしているぜ、godのあの木みたいじゃないか。 (kamekou) あれ、snakeさん起きていたのですか。 (snake) まあな、首が苦しくてよく眠れんよ、お前の声も響くし。 (kamekou) 玉手箱の話しですね。続きを聞きますか。 (snake) そのまえにあの実を俺に食わしてくれ。gaeruみたいに顔にぶつけるなよ。あの野郎無邪気な顔して眠ってやがる。 (kamekou) これはいい実ですね。うまいし、いい酔い方をするだす。 (snake) その実はまだたくさんあるんだ。 (kamekou) へえ、そうなんですか。 (snake) あとで教えてやるよ、玉手箱の話し続けろよ。 (kamekou) この実のありか頼みますよ。 それじゃ続けます。 男がまた夜に笛を吹いていると、音色に吸い寄せられるように少女がやってきた。足は素足だす。 また来たのか。男は顔をしかめた。にいさんがあたいを呼んだのでしょ。ばか、こんな夜更けに呼ぶわけないだろ。そんな邪険に怒らなくてもいいじゃない。少女は素足で砂をねじた。おまえはもうすぐお嫁に行く身だろ、そんな娘が夜な夜な別の男と会ってていいわけないだろ。別の男って、あたいのにいさんでしょ。そういってもおれたちは兄妹ではない。そんなのはわかってるわ、それでもづっとかわいがってくれたじゃないの。それは子供のころの話し。あたいは今も子供よ。少女は素足で男の方に砂を蹴っただす。もうすぐ嫁ぐのだろ。嫁に行くまでは子供よ、だからお話ぐらいしてくれてもいいじゃないの、あたい帰らない。 少女は、あろうことか石の陰に隠れていたわしの背中に坐った。ぐっと声が出るのを抑えた。思いの外重たいだす。思いの外って、何と比べて、もちろんその男と比べてである。どう見ても男のほうが重たい。しかし男を乗せたのは海の中だ。浮力があるから、これは物理の問題、またくだらないことが頭に浮かんだことだす。とにかくこの重さに耐えるしかない。 あたいはにいさんがずっと好き、にいさんも……。そうだとしても一緒になれない、おまえも村のおきて知ってるだろ、だから兄妹のように仲良くできたのだよ。あたいのこと好きではなかったんだ。そんなこと言ってない、兄妹のように思ってた。さっき兄妹じゃないと言ったよね。 少女は素足を半歩男の体に入れた。 あたいは、そうよもうすぐ嫁いでいくわ、そのあたいのためにその笛吹いてよ、餞別という言葉もあるでしょ。 男は仕方がないと、薄く笑って少女の横の石に腰を掛けた。少女の顔が嬉しげにはじける。わしはそれを首をすくめて見上げてただす。 石に腰を落とした男は静かに笛を吹く。それはわしの心にも響き、音姫様を思い出させ、故郷に心を馳せさせるのだす。わしは思わず首を伸ばす。わしの首は二人並んだお尻の間だす。少女は体を男の方にぴったり寄せて、笛に聴き入ってるだす。やがて笛の音は止み、静粛の闇の中、思い出したように波が音を運び、現実に引き戻されるのだす。 少女が口を開く。にいさんにはやっぱり恋しい人がいるのね、なぜ逢えないの。遠い海の向こうさ。異国なの。もっと遠くさ。だから淋しいのだね。少女は体を男の方に向けた。男は黙って波の向こうを見ている。不意に少女の手がわしの頭に当たる。わしは慌てて首を引っ込める。少女も手を引く。あたいも淋しい。少女は少し言葉に詰まる。少女の手がまた伸びてくる。今度はじっとしているとその指がわしの頭をやさしくなぜる。わしはいい気分になって、動かないでいる。気持ちいい。男に向かってささやいている。少女の呼吸が荒くなっている。それから、その指がわしの首に回ってきゅっと絞める。わしは驚いて首を伸ばして頭を持ち上げる。少女もおどろいたようで、手を放す。そして乱れた呼吸のまま男の肩に頭を預ける。わしは頭を左右にふって、甲羅の中に頭を格納するのだす。 男は立ち上がった。帰る、おまえも帰れ。なによその気になったくせに、意気地なし、バカ!。男は振り向きもしないで浜を後にした。少女はその場に泣き崩れる。わしは気取られないように手足を縮めてそこに固まる。少女はやがて素足に砂をかみ、千鳥足で去っていった。 白い砂の上に少女の涙の跡の黒い染み。今日は星も月もない夜。やがて雨。雨が涙も足跡もすべて消してしまった。わしは甲羅に潜って浅い眠りにつくのだす。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.08.04 08:13:32
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