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カテゴリ:日々の暮らしで思ったこと・気づいたこと
最近、日本語へ翻訳された資料を校正するという仕事をボランティアでしている。
困ったことに原文が手元にないので、原文と訳文を照らし合せながらチェックすることも出来ず、何度読んでも理解に苦しむ部分は、自分の想像力のみに頼って直していかなければならない。 そういった意味でも、校正は私にとっては久々に頭を使う作業なのだが、それ以前に、自分の母国語であるはずの日本語能力が確実に怪しくなりつつある私にとっては、最高の脳トレになっていることは確かだ。 校正に関わっていなかったらきっとアメリカで一度も捲られることもなかっただろう国語辞典に久々に指で触れ、『おおっ、、、!』などと思わず感動してしまったのだが、最近は特にネット中心の生活にまみれてしまい、本や辞典に触れる機会もめっきり少なくなってしまったのも事実、、、。 『こういうのを活字離れと言うんだよな。』と思いつつ、自分の日本語能力が低下したのを、今まで海外生活のせいにしていた自分をちょっと反省してみる。 私が校正の作業の中で一番困るのは、「既に日本語化されている英語とそうでない英語を勘違いしまうこと」であって、このせいで日本に居た時にも失敗ばかり繰り返していた。 例えば、車の部品が必要になった時の話だが、『Hood(フッド)』を日本語で何と言うのか暫く考えても思い浮かばず、その上、一旦『Hood(フッド)』という言葉が頭に出てしまうと思考はそこでストップし、どう頭を振り絞っても出てくる言葉はやっぱり『Hood(フッド)』だけという状況に陥ってしまったのだ。 結局迷った挙句に、もしかしたら日本語化しているかもしれないという願いを込めつつ、『ふっど』と思いっきり日本語発音で言ったところ、それも全く通じなかったのだが、結局それが『ボンネット』であったことは、私の、『車の前部分についているカバーで、パカッて開けたらエンジンが見えるやつ』というナゾナゾのような説明を真剣に聞いてくれた店員のおかげで分かったのである。 こんな風に、「日本語化されている英語」と「そうでない英語」の境界線が時々うまくひけずにいるのだが、このままだと、そのうち英語も日本語も中途半端になって、誰にも理解されない日が来るんじゃないかと冗談交じりに思いつつも、やっぱりちょっとばかりは不安になる。 以前、カリフォルニア州で日系の会社で働いていた時のことだが、そのすぐ隣の店には在米歴60年近くになるという方が働いていた。 10代の頃にアメリカにやってきたそうで、日系社会に住んでいた影響もあってか、主に話す言葉は日本語で第二言語が英語だそうだ。 彼女には、店に置く商品の札を日本語で書いて欲しいと時々頼まれたものだが、『在米歴60年もなると、日本語が書けなくなってね。最初は漢字、次はカタカナ、そして次はひらがなと順々に忘れていったの。日本で聴いた歌もね、今は童謡しか覚えていないのよ。』と言っていたのを今でも強く覚えている。 彼女は「忘れていった」と表現していたが、完璧に忘れている訳ではなく、例えば、ひらがなは「ぬ」とかくべきところを「む」と書いてみたり、、、といった具合だ。 それでも、彼女の「日本語が書けなくなった」という話を聞いてからというもの、自分の日本語能力に関しての心配を一層深くし、なるべく日本語を書くことを心がけている。 私の場合、少なくとも今のところは、書き言葉はたっぷり時間を掛けて考えたり、辞典などを引けばなんとかなるものの、ある程度のテンポが必要な会話は、言語をつかさどる脳のスイッチがちょっと遅れ気味に作動することが多く、日本語を使う場で英語が出てきたりと、なかなかスムーズにはいかない。 かといって、人の好意に甘えて、上記の「車の部品屋での出来事」のように連想ゲームをし続ける訳にもいかないし、また、私の英語がペラペラならまだ日本語の低下もしょうがないとも思えるのだが、英語も中途半端な状態なので、私としては、かなり深刻な問題なのである。 実際、私の義理の弟からも、『そのうち誰にも理解されなくなって、本当の意味でのエイリアン(ちなみに、移民という意味の他に異星人という意味もある)になるな。』と憎たらしいけれど、的を得たことを言われてしまったのだが、産まれてから30年以上も経つ今でも、最近初めて知った日本語やまだまだ知らない日本語が沢山あることも考えると、海外に住んでいても日本語を磨きつづけていきたいとさらに思いを深めるのである。 さて、私がとりかかっている校正の作業ももう少しで終わりに近づいているのだが、『この言葉よりはもっと別の言葉を使った方がいいんだけど、、、。英語では○○○って言うんだけど、日本語では何だったっけ?』などと、今も苦戦を強いられている。 ここまで来ると、人様が英文から日本語文にした訳文を校正している場合か!?と自分に突っ込みを入れたくなるほどだが、同時に、母国語は忘れるな!と自分の尻を蹴りたいような心境でいる、、、。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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