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古着だった。
袖の部分が黄色で、胸からは青のロングT-シャツだった。 僕はベッドの布団に寝ころんでいて、目を閉じていた。 なんだか知らないが、首がぎゅうぎゅうに縛られてきた。 腕の黄色い袖も狭くなってくる。 手首が痛い。 僕は目を開こうとした。 でも、できなかった。 声を挙げた。 うお、とか、うごかへん、とか。 そんな声が僕の耳に届いた。 でも、その声も小さくなってくる。 緑色のシャツの襟首が食い込んできているからだ。 僕の動くところは、もう、腰しかない。 そう思って、僕は腰を上げた。 やっと、動いてくれた。 T-シャツも一瞬、ゆるんだ。 右手を横に振り回し、僕はガラススタンドを付けた。 明かりの下で、僕は古着ではない、白いTシャツを着ていた。 そう。 ありきたりだけど、夢だったのだ。 でも、見える風景はいつもの部屋ではなかった。 だって、ホテルだったから。 綺麗に清掃されているが、古い部屋だった。 洋館といっても通じる位の古さだった。 どでかいスピーカーから、レコードの針の飛ぶ音が聞こえても 違和感がない。 そんな、ホテルで、僕は金縛りにあった。 それは、ありきたりではなく、人生初の経験だった。 白いTシャツは汗びっしょりだった。 時間は午前3時。 訳がわからなかった僕は風呂に入った。 怖かったから、備え付けのブラウン管のテレビの音は マックスにした。 疲れているだけかもしれなかったから、すっきり、体を 洗ったら、気分が晴れるかもしれない。 でも、気分は別の方向にいった。 むしろ、この部屋に入った時の気持ち悪さを思い出した。 見慣れないだけだからだろうって、思ったくらいだった。 古いから良い印象がしないんだろうって、捕らえていた。 でも、清潔な部屋だったし、いいだろうとも、思った。 3時を回っていたが、フロントに電話をかけた。 部屋を替えてくれと。 どうされましたって、フロントは聞いた。 僕は気持ちが悪いからと答えた。 すぐにフロントの人はやってきてくれた。 肩の少し上までの髪ははねていて、黒い ワンピースの中年の彼女は、替えの部屋の鍵を持ってきてくれていた。 その顔は驚いて、できたようなシワが 目の回りに刻み込まれていた。 単に、眠かっただけなのかもしれないけど。 なにしろ、3時30分を超えているのだから。 僕は正直に言ってみた。 「悪い夢をみたもので。今までは、そんなこと、なかったですか」 「ありませんが」 女性はそうとだけ、答えた。 無理もない。 「あの部屋、そんな人ばっかりなんです」なんて、言えるわけがない。 次の部屋は、さらに古い印象だった。 真空管が転がっているかもしれない。 でも、古いなとしか、思わなかった。 そうして、僕はやっと、眠りについた。 今、こうやって書いていて、一つは教訓がある。 気持ち悪いとかの、直感は信じてイイモノなんだと。 俺って、そんなに勘が悪いのではなく、勘を間違って解釈する事が 多いのだろう。 そして、なんだろうか。 何でTシャツだけが具体的に夢に出てきたのだろう。 目を閉じていたのに、色がなぜ、わかったのだろう。 夢だから視点がちがったんだって、100歩譲って、そうしよう。 でも、どうして、そいつが古着だって、わかったのだろう。 直感的で、圧倒的に、確実に、夢の中で、それは間違いないことだった。 ※もっと、「なんだかなー」なら『目次・◎日々の「なんだかなー」No2』まで お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008年06月02日 00時14分51秒
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