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テーマ:最近観た映画。(40095)
カテゴリ:ほどよく
ものすごく、面白かった。
「ダークナイト」 まず、初めに断っておくけど、このエントリーは歯に 衣を着せたように、はっきりとしていない文面が多いと思う。 ネタばれをさせたくないのものあるが、何より 「真実をすべて伝える必要はないのだ」 と、いうことを、理解していただければ幸いである。 と、いうことで。 迫力はあるが、ペースが適度に配分されていて心地よく ドキドキさせるアクションシーンの連続のわくわく感。 (つまり、疲れさせはしないこと) 正邪という古くて普遍的なテーマに真っ向から挑んだ 脚本。 ジョーカーを演じるヒース・レジャーを初めとする外れの ない演技。 そして、なにより監督のクリストファー・ノーランの演出と 脚本の上手さが光ったと思う。 この監督は共同脚本も行っていることもあるのだろうか。 ものすごく、伏線の張り方が上手い。 普通、伏線をガチガチに張ろうとすると、前半の説明が 多くなり、だれてしまう。 でも、「ダークナイト」はだれていない。 ハービー・デントの裁判で彼が運に任せている コインのエピソードが。 バットマンの登場シーンで、物まねバットマンだけではなく、 犬にバットマンが強くないことが。 銀行の捜査令状でもぬけの殻になった倉庫から内通者が 警察にいることが。 綺麗に物語のエピソードに後半に重要になるマテリアルが さりげなく、でも、はっきりわかる形で入れこめられている。 だから、物語を全部覚えていなくても、観客であるあなたは すっと、正と邪というテーマに真っ向に入っていけるのだ。 物語を覚えていない? そんなこと、あるものかと思うかもしれない。 でも、あなたがこの映画を観て、物語を初めから 思い出してみるといい。 きっと、思い出せないか、時間がかかるだろう。 なぜなら、「ダークナイト」は脚本の物語の作り方としても、非常に 凝っている。 アクションとマシーンの高いテンションと、織り交ぜられた息の 抜いたシーンにごまかせているかもしれないけれども。 そんな風に物語りがややこしくても、キャラクターに正邪という テーマを明確に背負わせることで、この映画の深みは十分に 伝わるのだ。 その深度が、この映画が単なるバットマンの勧善懲悪のファンタジーに 終わらせていないことだ。 そもそも、ヒーロー物でも妖精物でも現実とは違う設定であることが 当たり前になっているファンタジーはテーマーの純度を増しやすい。 現実にはいないキャラクターに抽象化したテーマを重ね易いからだ。 でも、ファンタジーはどうしても勧善懲悪にしないと物語がややこしくなる。 邪は邪であり、正は正でないと、話が終わりにくい。 邪が正になり、正が邪になるとややこしく成りすぎるのだ。 つまり、抽象化したはずのテーマに、複雑でグレーなリアリティの要素を 付与していくと、煩雑になってわけがわからなくなるのだ。 ただ、「ダークナイト」はテーマをリアリティのレベルに近づけていても なおかつ、成功している。 それは、キャラクター作りとその役者が全員、上手いからであろう。 また、「ええ、ここで殺しちゃうの」というリアリティを持たせる 容赦のなさを物語に盛り込むことを、覚悟した脚本家の潔さもある。 目的がなく、邪のエッセンスだけを取り出したジョーカーの 邪悪さが純度を増していき、ある種の魅力を持つ。 極端ゆえに、映画のキャラクターとしては魅力的である。 ジョーカーを演じきったヒース・レジャーの狂気の 表現は確かに素晴らしい。 一方でバットマンは正を行いながら、実は邪を引きつけているので はないかと悩む。 悩んだ末に、必要な邪を背負うことを彼は決定するにいたる。 正義の影を、淡々とした表情で通したクリスチャン・べールも 素晴らしい演技をしている。 そして、もう一人の主役。 いや、むしろ、正と邪の変化の引き金を引く人物もいる。 この人物に降りかかる物語の変化と、ビジュアルの変化は単純ではあるが 現実を離れたファンタジーとしてもの凄く効果的であるし、面白い。 「彼を悪にするのが目的だったのだ」とジョーカーは語るけど、この 展開は誰も予想できていなかったに違いない。 この予想できない展開が、クライマックスの数を増やしている。 でも。 ジョーカー、バットマン、そしてもう一人の主役だけでは、ダークナイトは まとまりを欠いていたと思う。 ややこしさと、複雑さの中で物語が落ちて、機能しなかったのではないかと、 私は思う。 ゲイリー・オールドマン演じるジム・ゴードンがいなければ、話がぶれて しまっている。 なぜなら、ゴードンこそ、ぶれることのないモラリティや正義を表現する 役割を背負っているのだ。 だからこそ、ラストのクライマックスでは試練も迎えてしまうのだけれども。 職業に誰よりも忠実であり、かつ、それ以上に警察という職業の目的である 正義の実現には、熱意を持っている。 かといって、頭でっかちではなく、現実的に正義を処理しようとしている。 渋い、いぶし銀の演技である。 と、実は僕は映画のエンドクレジットがロールされるまで、ゲイリー・ オールドマンだとは、わからなかった。 渋くて、めちゃくちゃ上手い役者だなと。 舞台で活躍していて、久しぶりに映画に出たような役者かと 思った。 アメリカでは舞台役者が1~2本映画に主演し、高評価を さらって、また、舞台に戻る役者が結構いるのだ。 僕はオールドマンとわからなかったのが悔しかった。 だって、大好きな役者だから。 「レオン」も「バスキア」も、「ハンニバル」の彼も好きだった。 でも、それらの作品はエキセントリックな人物を演じていた。 「ダークナイト」のゴートンはどちらかというと、普通の人物である。 普通というか、家族を愛し、職業に誇りをもつあたりまえの人物である。 こんな人物も、渋くオールドマンが演じるとは、彼の役者としての 幅の広さに凄いなと思った。 同じような性格俳優であるクリストファー・ウォーケンであれば 当たり前のメンタリティの人物を演じても、どこか、突飛な部分が 残ってしまうだろう。 (それでも、ウォーケンは凄い役者さんなのだけれども) この「ダークナイト」はヒース・レジャーに注文が集まりがちである。 集まっても良いほど、申し分ない演技をしているのは間違いない。 しかし、脇を固めて物語のモラリティを表現しているオールドマンや、 執事として渋い味を出すマイケル・ケイン、安心して観れるモーガン・ フリーマンに注目して観ても、きっと、面白い。 勿論、メインの物語を楽しむだけでも十分に面白い映画だ。 というより、物語と、演技とか他の要素で十分に二度楽しめる映画だと 僕は思う。 ※もっと、「なんだかなー」なら『目次・◎ものがたり』まで お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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