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カテゴリ:徒然なるままに
神は6日間で世界のすべてを創り7日目に休息をとった.
今日はその6日目に当たるのかもしれない. 運命のとき,今日攻城戦を迎える.相手は知らないが迎え撃つ立場だ. ギルドに所属してまだ日は浅いが,ギルドのために命をかけるのは当然のことと思う. そう,私は酷い人間だと自覚している. 欲望のテリトリーを守るため,簡単に人を傷つけることができるのだから. 人に何を言われようが,それが性分なのだから仕方がないことだ. それについてはいかなる批判も受ける覚悟でいる. しかし勘違いしないでほしい.そんな私にも心はあるのだ. その証拠に今日も祈る. 目の前に倒れゆく名も知らぬ敵のため,そしてその犠牲の上になりたつギルドの繁栄のために・・・ 私が祈る場所は決まっている. ギルド石像の前にひざまずき祈りを捧げるのだ. 私はいつも通り石像へ向けホールを闊歩する.高く響き渡る足音がホールの威厳を余すところなく表現する. 中央の通路を通り過ぎれば,求めるギルド石像だ. 開けた視界に色とりどりの石像が私を出迎える.そして中央に佇む燃えるような石像,ナルン. その圧倒的な威厳を漂わせるナルンの足元に,人影があるのに私は気づいた. ナルンの存在感の前に人一人など霞んでしまうのは致し方ないこと. 近づくまで気付かなかったとしても,なんら不思議なことではない. 無言のまま隣で祈るのも非礼であろうと感じた私は,祈る前に哀愁漂う翼を持つ背中に声をかけた. 「こんにちは.今晩の攻城戦がんばりましょう.」 こちらの気配に全く気付かなかったのか,驚いた表情でこちらを振り向いた. どうやら何か作業をしていたようだ. 「こんにちわー.いるの全く気付かなかったよ.今日の攻城戦がんばりましょうね!」 振りむいた顔に見覚えがある.ここのGMではないか. 名物GMらしいが,何がそこまで名物なのか詳しくは知らない. 手元にある箱を大事に抱えながら立ち上がり,私たちは向かい合った. 中肉中背,見た目はただのオジさん. 特徴的な外見などはなく,見た目的な名物ではないことは明白だ. ただ,手にした箱が特徴といえば特徴と言えよう. 「どこが相手でも私はただ排除するのみです. 防衛戦は戦術が大事,故に遠慮なくご指図して頂きたく存じます」 ごますりなどではなく本音だ.防衛戦は戦術が絶対だ. いかに手駒を適宜に割り振り相手を封じるか.その手腕が問われる戦であると思う. 「ここは副マス陣がしっかりしているからね.大まかな戦略だけ練って後はお任せだよ^^」 軽い口調で答えるGM.その威厳を感じさせない軽さを前にすると突っ込んだ質問をしたくなる. 「けど,あまりに任せると副マス陣の負担が重くならないですかね.」 「うーん,まぁそうかもしれないけどね.けど,副マス陣が優秀なら愚帝でも成り立つもんよ. 僕は『Yes』か『No』をいうだけさ」 平然とした顔で愚帝と言い出した.もしかして自覚があるのだろうか? 「そんなものですかね」 私の一言を最後に無言の間が周囲を支配する. この間に耐えきれなくなったのかGMが口調を変えて話しかける. 「まぁそんな堅苦しい話はやめやめ! 実はね,僕は今あるチャレンジをしているところだったのよ」 唐突にテンションが上がるGM.そして私の手元に謎の箱を近づけた. 「これは何か知ってる?」 『?』マークの散在する奇妙な箱. 「いや,初めてみます.なんですか,これは?」 唇の端を上げ,にまっと微笑むGM.なぜかとても誇らしげだ. 「これはロトボックスという素晴らしい恩恵のある箱さ.どうだい,すごいでしょ」 そういえば噂では聞いたことがある.どのようなルートで入手可能かはわからないが, 一攫千金を為すことができる箱だと. しかし特に興味もない. 「ほう,そうですか・・・」 言葉が続かない.特に聞きたい話題でもない. またしてもなんとも言えない沈黙が周囲を支配する. その空気を感じないのか,燦然とした眼でこちらを見つめているGM. 私はこの間に耐えられず,聞きたくもない質問を発してしまった. そう,あとから思えば,ここが逃げられるか否かのターニングポイントだったと思う. この判断をしたがためにに私は秘密を共有することとなる. 「このロトボックスというのは,どのようにして手に入れるのですか?」 さらにGM目が光る.興味を持っていると判断されてしまったようだ.すかさず二の句を入れる. 「いや,別に興味があるわけではないのですが・・・」 少々うなだれるが,そのようなことはお構いなしに語り出した. 「君はGEMという別世界のレートを知っている?」 質問に対し質問を返してくるやつ.個人的に好ましくはない. カチンときた感情を表に出さないように平然と答える. 「いや,知らないですね.Goldでお話してもらってよろしいですか?」 「うーん,Goldの換算はいまいちよくわからないのよねぇ・・・ そうだ,君の家の近くにM家かY野家という食べ物屋はある?」 「牛肉料理を出してくれる料理店ですよね.Y野家が近くにありますね」 私の質問に対し深くうなずきながら答える. 「それなら実に説明しやすいね. このロト箱一つで『牛丼並み・サラダ・みそ汁』のセットと交換可能だ. 『牛丼大盛り』単品ならお釣りがやってくる」 その答えを聞き私は自分の耳を疑った. 「この箱1つで一食分に当たるんですか?」 にわかに信じられない.この小さな箱にどれだけの価値が隠されているのだろう. 「その箱を・・・いくつほどお持ちなのですか?」 好奇心に負けつい聞いてしまった. 「ふふふ,その前に僕の今までの偉業を語らなくっちゃね. 僕は以前買い物籠をいっぱいのロト箱で埋めたことがあるのさ」 買い物籠.あの不思議な籠か.使ったことがないため,私のは当然,空だ. しかしあの籠はかなりの容量であろう.それを埋めるとはいったいどれだけの量を・・・. しばし呆然とする私を尻目にGMは続ける. 「けど,あれは分割して取り出せるのさ.そこがまだ甘いところだと僕は気づいた. 今度はね・・・ この僕の持っているカバンすべてに詰め込んで見せるのさ!」 ・・・! 今日は何度驚愕すれば良いのか,GMの鞄は私と同じ42個と推測される. さらにGMは奇妙な鞄を4つぶら下げている.あの1つの鞄に4つ入るとしたら,総計58個にもなる. 「58個・・・」 導き出された常軌を逸した数字が口から洩れでる. 「そう,58個」 人差し指を上に向けポーズを決める. 「その58という数字が,僕に課せられた使命さ!」 58食分の牛丼セットを想像し,私は急に気持ちが悪くなってきた. 考えただけで,もうお腹がいっぱいだ. ・・・ 私のことは認識出来ているのだろうか. ふと,そのような下らない疑問すら湧きあがってくる. 黙々と作業を続けるGM. 買い物籠から次々に出てくる不思議な箱. 小さい頃に見た「ド○えもん」のようだ.麻痺した思考に小さいころの思い出がよぎった. 「ふー.やっと終わった」 パンパンに張ったカバンは私と同じ容量とは思えない.立方体が織りなす鞄の外観. これだけで充分に盾の役割は果たせそうだな.それが私の最初の印象だ. それにしてもここまで入るとは驚きだ.実はポーターレベル11の試験官はGMなのではないだろうか. 「どうやってこんなに入れたのですか?」 「ん?見てたでしょ?押し込んだんだよ」 ・・・どうやら違ったようだ. 「さて,これからが本番だよ・・・. 君は僕の偉業の生き証人になるんだ.しっかり見ていてね」 同意した覚えはないのだが,証人にしたてあげられてしまうようだ. 「それじゃあ始めるよ!」 先刻詰め込んだ箱を一つ一つ取り出し開けるGM. 出ている物の価値は正直わからない. しかし徐々に蒼ざめて行くGMの表情がその結果を物語る. 「ま,まだまだ半分だよ・・・!これから溜めこんだ分,一気に爆発するからね!」 空元気なのは明白だが,ここは付き合うのが大人の事情というものだろう. 「期待しています」 私は答える. 惨劇は続く. 方々に散らばる空箱. 無造作に投げ捨てられた大量の花.安っぽい光り物の鎧にグローブ. 出てきた香水をすかさず体全体に振りかける. 幸せそうな空気を演出するも,一向に快方へ向かわない表情. 「あと7個・・・」 消え入りそうに沈み行く声に,つい同情的になってしまう. 「ここからが爆発の本番ですよ」 柄にもなく声を張り上げる自分. 本当に当たってほしい.心の底から祈りを捧げる. この重苦しい空気に耐えるのは,歴戦の勇者でも無理だ.かつてない絶望感が私を包み込む. 本当に当たってほしい.偶然居合わせてしまった罪のない私のためにも・・・ 私は今まで数え切れぬほどの祈りを捧げた. しかし今日ほど,この瞬間ほど祈りを捧げたことはなかったと思う. そして,今日ほど神に見放された日も・・・ 重苦しい空気に言葉が出ない私. 永遠に続くかと思われた沈んだ空気を,か弱い声が震わせた. 「ね,ねぇ・・・.わかっていると思うけど・・・. 今日のこの出来事は君と僕の2人だけの秘密ね」 「は,はぁ・・・」 曖昧に答える自分. たぶん,こうしてこの人は様々な人との間に2人だけの秘密を作っていくのだろう. なるほど・・・これでは名物になるはずだ・・・ 心に浮かんだ思いをそっと奥にしまいこむ. お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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