ＰＡＤＤＬＥ

...


...knock knock


・・・こんばんは！
誰かいますか～？
・・・誰もいないのかなぁ？
煙突から進入しちゃおうっとｗ



...


...yeah


・・・ふぅ
あ、どうも、季節はずれのサンタですｗ
プレゼント届けに来ましたｗ
ん？早くくれって？
仕方ないなぁ・・・
はい、今日は君にとっておきの物語をプレゼントするよ
僕が中学生の時の話なんだけどね
夕日を見てたりするといっつも思い出すんだ



...



...



バスの中で夕焼けを見てた
音楽を聴きながら見てた
あいつの好きな歌を聞きながら見てた
でもあいつはあれからずっと音沙汰がない
何をしているのかも分からない
何処にいるのかも分からない
だけど泣き虫なあいつのことだから
今日もきっと泣いてるんだろう
この唄を聴いて泣いてるのかもしれない
届かない恋に泣いてるのかもしれない
僕は分からない
あいつはずっと音沙汰がない
あれからずっと
別れた日からずっと

あの日２人はすれ違った
この無表情な街を行き交う人のように
何気なくすれ違った
自然のようにも見えた
これが運命であるかのようにも見えた
だけど占いが好きなあいつのことだし
おみくじや縁結びが好きなあいつのことだから
それを運命だなんて信じたくないのかもしれない
理由は聞かなかった
ただなんとなく、けれど運命的に別れてしまった
その日の夕焼けも忘れない
そして別れ際で僕がふと口ずさんで
あいつが振り返って
それに合わせて
泣きじゃくる震える声で
歌ったあの唄も忘れない

バスに人は乗っていなかった
僕だけのバスが家路へ急いでいた
窓から夕焼けが見える
だけどあの日のようにあいつはいない
あの唄の中では
僕はあいつを一生懸命追いかけてるんだよ
あの唄の中では
あいつは僕を一生懸命見失わないように見つめてるんだよ
２人が割くまでずっと
僕は自転車を一生懸命こいで
あいつに追いつこうと頑張ってるんだよ
「また会おう」なんて
稚拙な約束を交わしてるんだよ
でも２人は別れてしまった
僕とあいつは何にも言わずに
別れてしまった

あいつが今どうしているか
元気でやっているかなんて
僕は知らない
だけど明るいあいつのことだから
自分だけじゃ物足りなくて
人にも元気をあげたりしてるんだろう
あの僕が惚れた笑顔で
僕も元気にやってるよ
「思い出は大切に」なんて
綺麗なことじゃないけど
この唄を性懲りもなく聴いてるんだよ
あいつのことを思い出しながら
僕は自転車に乗ってあいつを追いかけてはいないよ
想像するのは
夕焼けの中で一緒に唄った唄さ
車輪の軋む音は聞こえちゃいないよ
聞こえるのは通るあいつの歌声さ

何度リピートしても飽きないんだよ
夕焼けが出てる限りこの唄を聴いていたいんだよ
あいつを思い出していたいんだよ
記憶の中から消し去りたくないんだよ
思い出は大切に、なんだろ？
だから僕も大切にすることにしたんだよ
思い出も、この唄も
でもちょっと泣きそうさ
元気じゃないかも
この唄を聴いてるとなんだか泣けてくるんだよ
あいつを笑顔で送り出したのに
それでも泣けてくるんだよ

夕日が沈んでいこうとしていた
唄はちょうど終わるところだった
この夕日をあいつも見たんだろうか
どこかで生きていれば見たはずだ
あいつはこの唄を聴いているだろうか
僕のことも思い出してくれているだろうか
少し切ない気持ちで夕日を見送るよ
そしてこの唄も見送るよ

今でも僕はこの唄を大切にしてるよ
だってこの唄が
あいつと僕を繋いでいた確かな証拠だから
あの日
夕焼けに照らされて
真っ赤な顔した２人
涙を拭いながら唄ったこの唄
いつか会えたらもう一度
２人で唄おう
今度は笑顔で





...zzz




...ﾘﾝﾘﾝﾘﾝ...



ps:プレゼント

「車輪の唄」