【一人で創る】ロボットの天才
ロボットの天才 職人でもあり、ビジネスマンである小型ロボット「クロノイ」やサッカーロボット「ビジオン」で有名なロボットクリエイター、高橋智隆さんの著作である。自身の生い立ちからロボットへの思い、ロボットの製作話まで、淡々と語られている。この人は職人である――「私はすべてをひとりで行う」(40 ページ)というのが、それを端的に表している。彼のロボットには「設計図が存在しない」(45 ページ)という。「コンピューターで図面を引けない」というのが表向きの理由らしいが、そもそも「複数の人間が設計情報を共有する」必要がないのだから、設計図は必要ないのだ。これは IT の世界でも言えるだ。自分だけが使う“俺様プログラム”に設計図が必要のないことは勿論のこと、大規模システムであっても、高速化や暗号化といった極めて専門的であり規模が小さなモジュールは一人で設計・製造する場合がほとんどだから、設計図の必要はないだろう。仕事を引き継ぐにしても、その部分を引き継げるのは設計者と同等のスキルを持つ者なのだから、広く一般的なプログラマに提示するようなレベルの設計書である必要はない。おそらくは、数式とメモで十分のはずである。また、「コンピューターで図面を引くことについては、さらに大きな弊害がある」(46 ページ)という指摘が印象的であった。「モニター画面上で行った設計は、どうしても直線的で単調な形状になる」というのだ。たしかに、CAD で設計された自動車や電車は、美しい曲面は持っているのだが、どことなく先鋭的なイメージを与える。また、メーカーや型式によって細部は異なるのだが、全体的に見ると似たような印象を受ける。レトロフューチャーな SF に登場する曲線的デザインにはならないのである。しかし、高橋さんは旧時代の職人とは異なり、ビジネスマンでもある。彼の会社「ロボガレージ」は京都大学発のベンチャーであり、京大のブランドを巧く利用している。そのために、わざわざ立命館大学を卒業してから京大に入り直したという経歴を持つから恐れ入る。■メーカーサイト⇒高橋智隆/メディアファクトリー/2006年6月/1,300円 ロボットの天才■販売店は こちら