【真実とフィクションの狭間に】千里眼事件
千里眼事件 自分の思考を脅かす何よりも強大で恐ろしい敵は、自分自身の野心や誤謬や興奮である。20 世紀に入って間もなく、明治末期から大正時代にかけ、千里眼・念写の能力を持つと称する御船千鶴子や長尾郁子らが、東京帝国大学の福来友吉といった学者とともに、当時興隆しつつあったマスメディアを巻き込んで起こした騒動が「千里眼事件」である。その真偽は 21 世紀の現代になっても定かではない――ということになっている。現代のホラー小説「リング」のモデルとなったのが、自殺した御船千鶴子であった。しかも、小説を書き終えるまで原作者がその事実を知らなかったというおまけ付き。ここまでくると、どこまでが真実で、どこからがフィクションなのか分からなくなってくる。本書を読んで、事実とフィクションの垣根を低くしようとする人間の弱さを、あらためて考えさせられた。「自分が望んだような実験結果を得たい、自分の仮説を証明する真実に出会いたいという願望こそが、学者に冷静な判断を失わせることになりがち」(49 ページ)、「自分の思考を脅かす何よりも強大で恐ろしい敵は、自分自身の野心や誤謬や興奮である」(189 ページ)――自分は学者ではなく技術者であるが、だからこそ尚更肝に銘じておかねばらならない言葉であると思う。■メーカーサイト⇒長山靖生/平凡社/2005年11月 千里眼事件■販売店は こちら