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カテゴリ:書籍
2021年、「気候システム」という複雑系の物理分野に初めてノーベル物理学賞が贈られた。受賞したのは、プリンストン大学上級気象研究者で、国立研究開発法人海洋研究開発機構フェローの真鍋淑郎さんだ。本書は、米ラトガース大学環境科学部教授アンソニー・J・ブロッコリーさんが著したものだが、1960年代から研究開発が進められてきた気候モデルの多くに、真鍋さんの名前が登場し、その業績の大きさを再認識した。 ブロッコリーさんは冒頭、「気候モデルの最大の価値は、気候変化の予測に役立つだけでなく、気候システムの仕組みをより深く理解できることにあると、私たちは強く信じている」(4ページ)と宣言する。 大気を含めた地球システムの出す放射が、シュテファン・ボルツマンの法則にしたがうなら、地表の平均温度は-18.7℃で、観測で得られている+14.5℃よりも33℃も低い(19ページ)。大気の温室効果を初めて予想したのは、数理物理学者のジャン・バティスト・フーリエだ(35ページ)。1894年にスウェーデンのスヴァンテ・アレニウスは、大気中の二酸化炭素濃度が2~3倍に変化したら、大きな気候変化を起こすだろうと予想した。 1960年代に、米国気象局(現・米国海洋大気庁)の地球流体力学研究所(GFDL)が、大気の鉛直1次元モデルを開発した。これは、水蒸気、二酸化炭素、オゾンといった温室効果ガスが、大気の温度構造を維持するためにどのような役割を果たすのかを調べるために役立った(51ページ)。真鍋とストリックラーは、1957年の観測データをもとに雲量を設定して計算を行ったところ、地表面温度は14℃となり、実測値に近い値となった(59ページ)。さらに、300ppmvという標準的な二酸化炭素濃度にすると、地表面温度は15℃になった。また、2倍の600ppmvにすると、温度が2.4℃上昇した。 数値天気予報の力学モデルを基に開発された大気大循環モデル(GCM:General Circulation Model)は、1950年代から開発が始まり、1958年の初頭にスマゴリンスキーは大気GCM開発チームの一員に加えるために真鍋をアメリカ合衆国に招いた。 1980年代後半には、大気・海洋・陸面結合システムの3次元モデルを使って、地球温暖化に関する研究が進んだ。 冒頭で述べたとおり、気象科学やコンピュータ・シミュレーションに関する基礎知識がないと、全体を理解するのは厳しいだろう。だが、最後まで読んだ後で、巻頭にあるカラーズ版を見返すことで、その内容が、シミュレータが示した1つの事実であることが分かる。 社会情勢の要求もあるだろうが、ブロッコリーさんが冒頭で強調する原題『Beyond Global Warming』(地球温暖化を超えて)が『地球温暖化はなぜ起こるのか』に翻訳されたのは少し残念なところである。 気候モデルは氷期・間氷期も扱ってきたが、さらに大気圏外へ目を向け、太陽磁場や宇宙線の影響をフィードバックシステムに組み込んだらどうだろう。観測により雲の発生に27日周期があり、偶然にも太陽の自転周期と一致している。さらに長周期で見ると、全球凍結(スノーボールアース)が発生していた時期と銀河系でスターバーストが起きていた時期が一致するという。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.04.02 13:56:14
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