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カテゴリ:書籍
ぼくは目を覚ました。いったいどれだけ長いこと寝ていたのだろうか。酸素マスクを付けられている。体中に電極と管が取り付けられている。コンピュータが耳障りな音声で質問してくる。だが、ろれつが回らない。自分の名前も思い出せない。ここはどこだろう。 ぼくは、ライランド・グレース。分子生物学者だったが、いまは学校の教師だ。ペトロヴァ対策委員会のエヴァ・ストラットにスカウトされ、ヘイル・メアリー号に乗り込み、11.9光年彼方のタウ・セチに到着するまで昏睡状態にあった。3人いた乗組員のうち、昏睡状態から回復したのはグレースだけだった。彼は2人の亡骸を宇宙葬にすると、タウ・セチに接近した。 ペトロヴァ・ラインの正体は、アストロファージと名付けられた10ミクロンの宇宙生物の集合体だった。アストロファージは太陽光エネルギーを喰らい、金星へ移動して、その二酸化炭素を使って増殖、再び太陽に戻ってエネルギーを補給するライフサイクルであることが分かった。このため,十数年後には地球へ届く太陽エネルギーが10%低下し、人類の半数が死滅すると予測された。 タウ・セチに接近したヘイル・メアリー号に近づいてくる未知の宇宙船があった。エリダニ400からアストロファージの謎を追ってやって来たエリディアンの宇宙船だった。グレースは科学知識と教師としての経験を活かし、エリディアンのロッキーと意思疎通できるようになる。エリディアン宇宙船の乗組員は放射線で次々に死んでいき、ロッキーが生き残りだった。 『火星の人』を原作とする映画『オデッセイ』を観たが、ともかくリアルで、オタク心をくすぐられる。ハードSFというより、彼の作品のためにリアルSFというジャンルを作りたいくらいだ。本書は第三長編にあたるが、リアルSFぶりは健在だ。 突然、見知らぬ部屋に放り込まれたら、以前の記憶を失っていたら、あなたはそこが〈異世界〉だと考えるだろうか――主人公が研究対象にしていた地球外生命体はメタルスライムのようなものだが、大きさは10ミクロンしかない極小スライムだ。一人ぼっちの主人公は、神の力を頼るでもなく、チート魔法力を与えられたわけでもなく、地道に物理学の基礎実験を通じて自分の位置を確認する――20世紀末、ファンタジー小説にお株を奪われたオタク世界がSFに戻ってきた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.05.06 12:01:24
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