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2023.05.06
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カテゴリ:書籍
プロジェクト・ヘイル・メアリー 上巻

プロジェクト・ヘイル・メアリー 上巻

 人間は脳味噌をまるごと視覚に捧げていて、それ専用のキャッシュメモリまで持っている。(262ページ)
著者・編者小野田和子=著
出版情報早川書房
出版年月2021年12月発行

ぼくは目を覚ました。いったいどれだけ長いこと寝ていたのだろうか。酸素マスクを付けられている。体中に電極と管が取り付けられている。コンピュータが耳障りな音声で質問してくる。だが、ろれつが回らない。自分の名前も思い出せない。ここはどこだろう。
ようやく腕が動かせるようになった。体がやけに重たい。メールを読んだ。太陽から金星に向けて25.984ミクロンの赤外線を放射する星雲「ペトロヴァ・ライン」が見つかったという内容だ。
ぼくは歩けるようになった。同じ部屋にミイラ化した遺体が2つ。ぼくは、記憶を取り戻した。この場所がどこなのか、そして、ぼくがやるべき仕事を思い出した――。

ぼくは、ライランド・グレース。分子生物学者だったが、いまは学校の教師だ。ペトロヴァ対策委員会のエヴァ・ストラットにスカウトされ、ヘイル・メアリー号に乗り込み、11.9光年彼方のタウ・セチに到着するまで昏睡状態にあった。3人いた乗組員のうち、昏睡状態から回復したのはグレースだけだった。彼は2人の亡骸を宇宙葬にすると、タウ・セチに接近した。

ペトロヴァ・ラインの正体は、アストロファージと名付けられた10ミクロンの宇宙生物の集合体だった。アストロファージは太陽光エネルギーを喰らい、金星へ移動して、その二酸化炭素を使って増殖、再び太陽に戻ってエネルギーを補給するライフサイクルであることが分かった。このため,十数年後には地球へ届く太陽エネルギーが10%低下し、人類の半数が死滅すると予測された。
アマチュア天文学者たちの観測によると、太陽系の近くにある恒星は、どこもアストロファージが感染していた。そんな中、11.9光年離れたタウ・セチだけは感染してなかった。その謎を調査するため、ストラットは世界中から優秀な科学者を集め、各国の軍隊や生産力を利用して、タウ・セチへ向かう恒星間ロケット「ヘイル・メアリー号」を建造した。燃料はアストロファージ。

タウ・セチに接近したヘイル・メアリー号に近づいてくる未知の宇宙船があった。エリダニ400からアストロファージの謎を追ってやって来たエリディアンの宇宙船だった。グレースは科学知識と教師としての経験を活かし、エリディアンのロッキーと意思疎通できるようになる。エリディアン宇宙船の乗組員は放射線で次々に死んでいき、ロッキーが生き残りだった。

『火星の人』を原作とする映画『オデッセイ』を観たが、ともかくリアルで、オタク心をくすぐられる。ハードSFというより、彼の作品のためにリアルSFというジャンルを作りたいくらいだ。本書は第三長編にあたるが、リアルSFぶりは健在だ。
それにしても、ウィアーさんの博識ぶりには舌を巻く。本書の舞台を支える力学や宇宙物理学はもちろん、本業だったプログラミング技術を要所要所に登場させ、量子力学や生物学、現代の社会問題となっている地球温暖化や核兵器まで活用する。

突然、見知らぬ部屋に放り込まれたら、以前の記憶を失っていたら、あなたはそこが〈異世界〉だと考えるだろうか――主人公が研究対象にしていた地球外生命体はメタルスライムのようなものだが、大きさは10ミクロンしかない極小スライムだ。一人ぼっちの主人公は、神の力を頼るでもなく、チート魔法力を与えられたわけでもなく、地道に物理学の基礎実験を通じて自分の位置を確認する――20世紀末、ファンタジー小説にお株を奪われたオタク世界がSFに戻ってきた。






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最終更新日  2023.05.06 12:01:24
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