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2023.11.25
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カテゴリ:書籍
宇宙になぜ、生命があるのか

宇宙になぜ、生命があるのか

 まったく生物が存在しない状態から、物理法則にもとづく非生物的な化学反応によって、どうやって100塩基ほどの遺伝情報を持つ最初の生命が誕生したのか?(167ページ)
著者・編者戸谷友則=著
出版情報講談社
出版年月2023年7月発行

著者は、宇宙物理学者の戸谷友則さん。冒頭で「原始生命体の誕生は、宇宙や太陽、地球の誕生に並び、我々人類の存在を理解するうえでの大問題」としながらも、「生命の起源というテーマで研究したり、本を書いたりというのは結構勇気のいることなのである」と漏らす。「ビッグバンによる宇宙の始まりのほうが、生命の始まりよりもはるかに詳しくわかっていると断言できる」(8ページ)からだ。

まず最初に、生命とは何だろうか――NASAによる定義「生命とは、ダーウィン進化する自立した化学的システムである」(31ページ)がよく受け入れられている。戸谷さんは、化学進化説を提唱したオパーリンによる定義「自己複製と突然変異を起こすすべてのシステムは生きている」(34ページ)が本質的かつ一般性が高いという。

第2章では、化学反応システムとしての生命について考える。
さまざまなアミノ酸の中で、地球上の生物が使っているのはわずか20種類で、光学異性体のL型のみだ。この20種類のアミノ酸から無数のタンパク質が合成されるわけだが、それを司っている核酸には4種類の塩基――DNAはアデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)の4種、RNAはTに代わりにウラシル(U)――があり、この4種類から3つを取り出した組み合わせで1つのアミノ酸を指定する(コドン)。組み合わせは4×4×4=64通りあるから、20種類を指定するのは余裕だ。ヒトのDNAの長さは約30億塩基対あり、コンピュータに換算すれば60億ビット=約0.75ギガバイトと、意外に少ない。
DNA→RNA→タンパク質という合成システムはすべての地球生命に共通しており、「セントラルドグマ」と呼ばれている(81ページ)。
DNAの複製の際に材料となるヌクレオチドにはエネルギー源として高エネルギーリン酸結合が含まされており、このうち塩基AのものがATP(アデノシン三リン酸)という生物共通のエネルギー通貨だ。ヌクレオチドを結合するときにリン酸結合のエネルギーが使われ、そして2つのリン酸が連なったリン酸基は周囲に捨てられる。こうして、生命は局所的にエントロピーを低下させ、秩序と組織を維持している。
タンパク質の合成でも同様で、ATPを使って合成されたアミノアシルtRNAのエネルギーを使ってアミノ酸からタンパク質を合成する。

第3章では、多様な地球生命とその進化史について考える。地球上の生物は、細菌、古細菌、真核生物という3つのドメインに分類できるという。
全生物種のなかで最大のゲノムを持つのはポリカオス・ドゥビウムというアメーバの一種で、そのゲノムサイズは7000億塩基対、ヒトの200倍もある(95ページ)。ゲノムが大きい者が進化した生物とは限らない。
逆にゲノムサイズが小さいものは原始的な生物なのだろう。だが、ウイルスは他の細胞に寄生して増殖するため、ウイルスが単独で発生したとは考えにくい。
ウイルスより小さいものとして200塩基ほどのウイロイドがある。触媒としての活性を持つRNAであるリボザイムは、100塩基ほどだ。このあたりが生命的な活動性を発揮するために必要な最小限のゲノムサイズといえそうだ(98ページ)。
地球が誕生して1億年ほど経ったころ、火星ほどの大きさの別の原始惑星が地球に激突し、月が生まれたとされる。さすがに、これより前に生命が誕生したと考えるのは難しい(102ページ)。
最初に誕生した生物は単細胞の原核生物であったろうが、他の生物は存在しないから、独立栄養生物であったことになる。光合成生物の誕生にはしばらく時間がかかったと考えられており、最初の生物は周囲の物質を化学反応させてエネルギーを得る化学合成細菌のようなものであった可能性が高い(105ページ)。
27億年前にシアノバクテリアが誕生し酸素を発生させる。まず、鉄イオンと反応して2億年をかけて酸化鉄の鉱床を生みだした。それが終わると、いよいよ大気中に酸素が放出されてゆく。真核生物が登場し、有性生殖が始まる。
地球上の生物は、海水中の全炭素の1.4%、また大気中の全炭素にほぼ匹敵する量の炭素をその体内に貯蔵しているという。地球表層に存在する炭素原子の相当な割合が、生物として存在していることになる(111ページ)。

第4章では、宇宙における太陽と地球の誕生について考える。ビッグバンから太陽系誕生までの流れは、宇宙物理学者の十八番であろう。戸谷さんは、生命を宇宙に現出させる上で恒星が果たした決定的な役割は重元素の合成だという(130ページ)。
すでに5000個を超える太陽系外惑星が見つかっており、ハビタブルゾーンにある地球程度の質量の惑星も見つかり始めている。そうした系外惑星に生命が発生するだろうか。
生命は、エントロピーを減少させているように見えるが、実際には体外からエネルギーを取り込んで成長、進化する。したがって、生命の発生には何らかのエネルギー源が必要だ。たとえば地球の場合、海底にある熱水噴出孔が原始生命誕生の場所として考えられる。
熱水噴出孔からは10万トンの有機化合物が生み出されたというが、一方、惑星間塵によって20万トン、さらには彗星によって1億トンもの有機化合物が地球にたらされたとも考えられている(158ページ)。生命は地球外で発生し、彗星に乗ってやってきたのだろうか。

第5章から第6章では、原始生命誕生のシナリオと発生確率を計算する。
最初に自己複製能力を獲得したのはDNAではなくRNAと考えられる(RNAワールド)。前述の通り、触媒としての活性を持つRNAであるリボザイムは100塩基ほどの長さだ。
戸谷さんは、まったく生物が存在しない状態から、物理法則にもとづく非生物的な化学反応によって、100塩基ほどの遺伝情報を持つ最初の生命が誕生する確率を計算し、論文発表した(Emergence of life in an inflationary universe https://www.nature.com/articles/s41598-020-58060-0)。
その論文によれば、10^180個の恒星が必要となるという。ところが、半径138億光年の観測可能な宇宙にある星の数は10^22個しかない。

第7章ではインフレーション宇宙に触れ、インフレーション宇宙全体は〈観測可能な宇宙〉の外側に10^26倍の大きさで広がっていることから、10^22×10^78=10^100個の恒星が含まれると考えられる(212ページ)。インフレーションの倍率は現代物理学では特定できないから、さらに2倍、3倍という可能性もある。すると、10^180個の恒星が必要という前提は、あっさりクリアできる。
戸谷さんは、これは一つの仮説にすぎないと断りつつも、「生命の起源は科学の範囲で理解可能であり、一見、確率が非常に低いからといって、神や超科学的なものを持ち出す必要はない」(220ページ)と指摘する。

では、地球外生命は見つかるだろうか。これが第8章のテーマだ。
戸谷さんは「残念ながら、地球外生命が見つかる可能性はきわめて低い」(224ページ)という。
SETI(Search for Extra Terrestrial Intelligence;地球外知的生命体探索計画)のために考案されたドレイクの式にしても、(1)原始生命が誕生する確率、(2)知的生命体にまで進化する確率、(3)文明の継続時間――の3つのパラメータの不確実性が大きすぎて、地球外文明からの信号を受信できるかについては、確かなことは何もいえないという結論となる(236ページ)。

ドレイクの式
N = R_* f_p n_e f_l f_i f_c L

N:銀河系に存在する地球外文明の数
R_*:銀河系での恒星の生成率
f_p:その恒星が惑星系を持つ確率
n_e:惑星系のなかで生命が存在可能な惑星の平均数
f_l:その中で生命が実際に発生する割合
f_i:その生命が知的生命体まで進化する割合
f_c:その知的生命体が星間通信を行う割合
L:その文明が星間通信を継続できる時間

20世紀前半に活躍した物理学者エンリコ・フェルミは、「銀河系に数多くの恒星があり、それらに文明が発達しうるなら、なぜ高度に進化した知的生命体が地球までやって来ていないのか?」というパラドックスを提起している。戸谷さんは、、そもそも原始的な生命すら誕生する確率はきわめて低く、銀河系どころか観測可能な宇宙の中で生命は地球だけ、という可能性が十分にあるという立場だ(237ページ)。
だが、地球生命の起源を地球外の宇宙に求めるパンスペルミア説の立場にたてば、たった一度だけ発生した生命が、銀河中に播種した可能性はある。
戸谷さんは、「科学でも、その他のどの分野でも、革命やイノベーションを引き起こす原動力は常に、悲観主義ではなく楽観主義である」(247ページ)と述べる。

終章で、戸谷さんは、近年は生命の起源に入れ込んでいるのか心情を吐露する――「物理学という強力な学問によって、ビッグバンで始まった宇宙で銀河や恒星が生まれ、さらには惑星が生まれるところまで、そのおおまかなところは物理法則にもとづいて理解できてきた」が、「生命という、何やらわけのわからないものが宇宙に存在し、筆者自身がその一つであるにもかかわらず、その起源や存在原理をまったく説明できないことがもどかしい」(250ページ)なのだという。
これを解明しようとする人間原理についても、「人間原理の弱点は、それが予言能力を持たず、実験的な検証も難しいというところであろう」(260ページ)と指摘する。
最後にアインシュタインの言葉「私が本当に知りたいのは、神がこの世界を創造するうえで、何らかの選択をしたかどうかである」(263ページ)を引用し、「神だか何だか知らないが、この世界はそのように作られているのではないか。そんな一抹の不安を、打ち消すことができないでいる」(264ページ)と締めくくる。

私たちはどこから来て、どこへ行くのか――研究者ではない私の頭の中で、常にモヤモヤとしている疑問である。自分の行く末は大体見えてきた。子どもも社会に巣立ち、うまくやっていくことだろう。では、孫は? 曾孫は? 一体どこへ向かっていくのだろうか。
本書は、宇宙物理学者が書いただけあって、数字に立脚している。「生物は、海水中の全炭素の1.4%、また大気中の全炭素にほぼ匹敵する量の炭素をその体内に貯蔵」しており、生物を構成する有機物は「地球表層の炭素のけっこうな割合を、太陽エネルギーを使った光合成によって燃料に変えてしまった」(111ページ)などと記している。
RNAワールドの発生確率の計算も新鮮だ。観測可能な宇宙空間では〈あり得ない〉が、インフレーション宇宙に広げれば可能性が出てくる。神を持ち出さなくても解決の糸口を見つけるのは、さすがは科学者である。

とはいえ、地球上の生物がすべからくL-アミノ酸のみを選択しているのは、どこかおかしい。果たして神が選択したのか。また、地球誕生から僅か5億年後に最初の生命が誕生したというのも、いかにも早い。果たして地球外から生命がやって来たのだろうか。地球誕生以前の宇宙の歴史が100億年あることを考えると、マクロス・シリーズのように進化した地球外生命体が生命を銀河中に播種したのかもしれない。それほど大昔の宇宙となると、真空が相転移する前のことで、もしかすると違った物理法則により生命が誕生しやすかったかもしれない‥‥「宇宙戦艦ヤマト2202」で、神のような存在であるズォーダー大帝が選択を求め、古代進むがそれを拒否する。どちらが正しかったか――だから科学は面白い。
戸谷さんも大学受験の物理と生物の壁について嘆いているが、大人になってからでも遅くない。理科4教科(物理、生物、化学、地学)は漏れなく履修しようよ。

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最終更新日  2023.11.25 13:10:32
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