ああ野原先生
高校時代の同窓会の便りが来て開いてみたら、当時の数学担当の野原先生の追悼文が載っていた。 背が低くて坊主頭のちょっと風采が上がらない先生を、私たちは「のっぱら」と呼び捨てにしていたものだ。 教会に行き始める前、特に数学はだめで、テストをしても1問もわからず、テストの裏に、人生に何の目的も感じられない、などど書きつづって出したことがあった。 野原先生から呼び出しがあって、「白紙で出すとは何事か、ちょっとでも書いてあれば、10点でも20点でも、点のつけようがある。零点ではどうにもならないんだ」と怖いお顔で叱られ、それから、「今度の日曜日に教科書を持って学校へ来い」と。日曜日に誰もいない職員室へ行くと、練習問題の、こことこことここをやって持って来なさい。例題を見ながら何とか書いて職員室へ持っていくと、先生が一人で待っておられた。 卒業以来、野原先生とはお会いすることはなかったが、年賀状を出すと必ず、返事を下さった。私が出すのを忘れても、先生からはよこして下さり、そして去年の暮れには、家族の方から、野原はなくなりました、と言うお便りをいただいた。 日本の言葉に「一期一会の心構え」という言葉がある。一生に一度しかご一緒できないかも知れないと言う、お茶を点てるときの心構えの言葉だが、そこから人との交わりを大切にと言う意味が生まれた。夫婦でさえ、一期一会の心構えが必要と思った。