ぜんそくの発作
少年の頃はひ弱な体だった。窓から冷気が入ってくるもう少し秋が深まる頃、あわてて窓を閉めた。冷たい風が肌を撫でるとさぁっと気管支が詰まってくるのがわかる。ぜんそくの発作は、そのように始まった。呼吸の苦しさに寝ていられず、夜中でも、ふすまに寄りかかって、発作が通り過ぎるのを待つ。大体1時間を過ごすと判で押したように呼吸が楽になってくる。やがて背中のある部分を指圧すると、呼吸が楽になることを覚え、母に押してもらった。「この発作さえ無ければ、ぼくはもうそれだけで幸せだ」発作の最中は決まってこんなことを考えた。結婚後数年たって、発作は遠のいた。そこから完全に解放された今でも、苦しかったこの季節に思い出す。「発作さえ無ければ、それだけで幸せだ」と考えた少年の頃。