011 知財部の仕事の根っこ
対象とする命題が、現実世界の中にある事実と一致すれば真であり、その事実と一致しなければ偽になるという「真理の対応理論」というものがあります。これを特許に関する活動に適用してみると、知財部の仕事の本質が見えてくると考えています。 発明とは思想(2条1項)です。特許出願書類の中で、発明を記載する文として特許請求の範囲(以下、クレームとも言う)があります。つまり、クレーム記載の発明は命題なのです。 特許性の主張(特許出願や特許を得るための特許庁とのやりとりを行う中間処理等)とは、クレーム記載の発明が偽であることを証明することです(特許法29条1項各号、29条の2、39条)。つまり、特許になる発明は、出願時にこの世の中すべて(全世界)の中でないものであることが必要です。 一方、特許になった後に、特許発明の技術的範囲に属するとの主張(権利活用、そのための探索活動等)とは、そのクレーム記載の発明が真であることを証明することです。つまり、侵害しているものが、発明を具現化しているものであることが必要です。 したがって、知財部の仕事は、同一命題が偽であって、かつ真であることを求めるというパラドクスです。 と結論とするのは、言いすぎでしょう。いくら知財部の仕事とはいえ、矛盾律に反することは許されない。どこに誤りがあるのか?答えは、出願時と侵害時という時制を考慮していないからです。でも、知財部の仕事は困難性を極めるものであることにかわりはありません。なぜなら、いま無いことが将来実現しなければ価値がないからです。換言すれば、形而上学上の世界とこの現実世界の関係を取り結ぶことだからです。これが一番の困難さだと考えています。 そして、それに派生して、いま無いことを調査すること(先行技術調査といいます)、実現していることを調査すること(証拠調べ)等々、の難しさがでてくるのだと考えます。