2018年文楽4月公演第一部その4 知恵比べ
(続き)慈悲蔵は峰松を横目に見ながら、母に言いつけられた筍を掘りにでかけるが、お種がはやまったことをしないように、家の戸を開かないようにくくっておいた。お種は、次郎吉の世話をしながらも、雪の中で寒さとひもじさで泣いているわが子を捨てておけず、ついに戸をけ破って表に出て、峰松を抱き上げてしまう。唐織が姿を現し「その子を抱き上げたからには、慈悲蔵殿は我が味方になるということですね。さっそく、信玄公にお伝えしてまいります」と去っていく。お種は(そんなつもりはないのにと)茫然としている。そこへ、懐剣が飛んできて峰松に突き刺さり、息が絶えてしまう。家の中では横蔵が次郎吉を小脇にかかえて奥の間に駆け込もうとしている。お種はさては、横蔵が懐剣を投げたのか、ただではすまさぬと横蔵を追って、奥の間に入っていく。(場面はかわり)家の裏手に筍掘りにきた慈悲蔵は、この雪の中に鳩が数羽群れ集まっている場所を見つける。「軍学では、鳥の集まる地面の下には兵器ありという。さては母上のいう軍学書はあの地面の下にあるのではないか。」と慈悲蔵は考え地面を掘ると予想通り何かををおさめた箱が出てくる。やれうれしやと思う間もなく、横蔵がやってきて「それを俺によこせ。わしが出世の種にしよう。」と奪おうとする。二人が奪い合いをしているところに、家から母親の声が「慈悲蔵でかした。私が夫から預かった軍学書はそなたにやろう。横蔵そなたにも立派な主人を見つけておいた。今こそ両名武士として名をあげる時がきたぞ。慈悲蔵裏手に回り戸締りをしておくれ。」慈悲蔵が姿を消すと横蔵に「そなたの主より預かった衣装がある。」と持ってきたのが、白装束と腹切り刀。「いったいこれは何の真似だ。」「さきほど長尾景勝殿がそなたを召し抱えたいと見えられた。そなたになり替りこの母が承諾した。私に充てた景勝殿の手紙では、そなたは以前に景勝殿に命を助けられたことがあるそうな。その折容貌がにていることから、いざと言う時の身代わりになってもらおうと思っていたとか。」「わしは一度の知行ももらっておらぬのに、命を投げ出せと言うのか。」「一度命を助けられたからには、その借りは返さぬといけない。なぜ命を助けられたか、相手の深慮遠望に気付かなかったお前がうかつじゃ。嫌というなら母がそなたの首打ってやろうか。」