2019夏休み文楽特別公演第2部その1運命のいたずら
仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)4月の公演で最初から四段目までが公演されて、今回はその次ということになるもともと赤穂浪士の討ち入りを浄瑠璃に仕立てたものだが、そのまま上演すると幕府からのとがめを受けてはいえかにというので、鎌倉時代の話にして、名前も違う名前で登場させてある。塩谷判官(浅野内匠)が高師直(吉良上野介)の意地悪に耐えかねて、御殿で切りかかり、家は断絶、身は切腹ということになった。この時供をしていた早野勘平(はやのかんぺい)は奥方の腰元おかると持ち場を抜け出して、逢引きしていた。そのため、騒ぎの場所に居合わせず、主人を助けることもできなかった。一時は死ぬことも考えたが、生き延びて殿の無念を晴らす手助けをしようと、おかるとともに、おかるの実家に身を寄せるのだった。山崎街道出会いの段(やまざきかいどうであいのだん)勘平はおかるの実家で猟師をして暮らしている。夜の雨に鉄砲の火縄の火が消えてしまった。丁度提灯をもって夜旅をしている侍が通りかかったので、火を貸してくれないかと声をかける。侍の方は、こんな夜中に声をかけられて、山賊の仲間でもあったら油断はできないと身構えている。しかし、お互いが良く良く見ると侍は塩谷判官の家臣千崎弥五郎(せんざきやごろう)だった。勘平は、「こうして生きながらえているのも、主君の無念を晴らすため、家臣の中でも仇討の動きがあるだろう」と問いかける。弥五郎は、仇討を決行する仲間を募って歩いていたが、うっかりしたことは言えないので「殿の心残りを慰めるため石碑を建立しようと、仲間を募っている。そなたが是非にと言うのであれば、建立の費用を持参せよ、ご家老にとりなしてやろう。」と答える。言葉の端々から仇討をするのだと感じとった勘平は二日でなんとか金を作るので、家まで訪ねてきてほしいと頼むのだった。二つ玉の段(二つたまのだん)豆知識(ふたつたまとは、大型の獣を確実に仕留めるため、一度に弾を2つこめて火薬も多めにして発砲すること。)勘平は弥五郎に渡す金をねん出するために、苦心している。事情を知ったおかるは両親と相談し勘平をもう一度武士として名をあげさせるために、身売りして金を作ることにした。もちろん身売りすると言えば、勘平は絶対とめるので、勘平には知らせずに決めたことである。おかるの父親与市兵衛(よいちべい)は、おかるが身売りした前金を受け取ったので、夜道を急いでいる。ところが、与市兵衛の懐に目をつけた山賊の定九郎(さだくろう)(塩谷判官の家臣で強欲な斧九太夫の息子だが、素行不良のため勘当されている)が与市兵衛から無理やり財布を奪い取り、切り殺して谷底に死体をけり落とした。財布の中に50両もあったので定九郎はほくそ笑んでいるところへ、猪が飛び出してきた。そして突然発砲されて、定九郎は弾に当たってあっけなく死んでしまう。鉄砲は、勘平が猪に向けて撃ったものだったが、近くにいた定九郎にあたってしまったようだ。暗闇の中で確かに手ごたえはあったと、勘平が探していると、人が死んでいるのを発見する。これはどういうことだ、自分が間違えて人を撃ってしまったのかと身体を探っていると大金が入っているらしい財布を探り当てる。勘平は悪いこととは知りながら、これを石碑の建立費用と言うことにして仲間に入れてもらおうと、財布を手にして、家路を急ぐのだった。