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カテゴリ:本(小説以外)の話
世界中に衝撃をあたえたアメリカ同時多発テロから、昨日で5年。
この5年間、テロとの戦いというかけ声とは裏腹に世界中でテロが頻発しています。 今「原理主義」というと、まず「イスラム原理主義」が思い浮かぶと思いますが、もともと「原理主義(Fandamental)」という言葉は、20世紀初頭の北米プロテスタントの一部の流れをさす際にうまれた言葉です。 7月に『アメリカの原理主義』(集英社新書)という本が出版され、タイトルに興味を持ったので読んでみました。 最初に生まれた「原理主義」は、聖書に書かれていることは全て真実である、と主張し、主に公教育で進化論を教えることに強く反対するものでした。 現在、アメリカの原理主義と呼ばれるものの中核をなす宗教右派は、この古い原理主義を源流とし、より広く一般に受け入れられる政治勢力として変容していったもの、と述べられています。 アメリカの原理主義が単なる「キリスト教原理主義」ではないのは、アメリカ建国神話に対する特徴的な考え方に拠ります。 最初にアメリカに入植したのは、イギリス国教会の宗教改革を不徹底なものと批判し、自ら新天地に「神の国」を創ろう、と意図した清教徒(ピューリタン)です。 宗教右派はこれを「アメリカ建国の理念」とし、現在のアメリカがおかれている多様性を持った社会ではなく、キリスト教に基づいた伝統的西洋文明に立ち返ることを主張しています。 複数のインタビューに「アメリカは神から与えられた特別な国」「アメリカは神に選ばれ、世界を導く使命を与えられた特別な国」といった表現がみられます。 (アメリカ入植時に先住民にどれほど残虐なことをしたかに、少しでも思いを馳せることができれば、「アメリカは神から与えられた」なんて、絶対にいうことができないと思うのですが・・・。) この「選ばれた神の国」という考えが、アメリカ原理主義の根幹のように思いました。 また、宗教右派はイスラエル建国を、聖書に書かれたユダヤ人の聖地への帰還と考え、キリスト再臨の前兆であると捉えている。 そのために、イスラエルをアラブ社会から堅持しなければならない、と主張しているというのに「なるほど!」と納得しました。 この主張は、ユダヤロビーが力を持ちイスラエルを支持するネオコンの論理と符合し、お互いの政治力を高めあっている、という分析もあるそうです。 その他、宗教右派が特に敏感に反応する二つの争点「中絶反対」と「同性婚反対」の関係者や、宗教右派と多くの論理が重なる極右団体などへの多くのインタビューやデータを用いてわかりやすく構成されています。 (国際機関に対する反感、終末思想など、多くの論理を共有する極右と宗教右派が決定的にちがうのは、極右は人種差別的であり、特に反ユダヤであるのに対し、宗教右派が重視するのはキリスト信仰であって人種差別色はないこと、むしろ親ユダヤであることだそうです。) 現代アメリカを動かすロジックの一端を理解するのに役立つ興味深い本でした。 著者は読売新聞のニューヨーク支局長を務めた経歴を持つ女性です(現在は同紙編集委員)。 通産9年間アメリカで暮らした彼女は、前書きで次のように書いています。 「私が感じたのは社会の座標軸がズズッと右にずれたような変化である。 そしてその流れは、米同時テロをきっかけに、強まった。」 この感覚は日本に暮らす私にも感じられたもので、さらにいえば「ブッシュと小泉」という不運な組み合わせの相乗効果によって、日本流に形を変えつつ、日本の座標軸もぐっと右にずらしたように思います。 「アメリカは特別な神の国」という考え方、国学などに強く見られる日本の神州思想、また中国の中華思想。 例をあげるまでもなく、「自分の国は特別である」という考えは、どこの国でもみることのできる、ある意味原始的な感情でしょう。 しかし、その思想に基づいて国家が動けば、必ず悲劇をもたらすような気がします。 ブッシュ大統領がそのまま宗教右派であるか、というならば答えはNoのようですが、その行動原理はまさに「アメリカ原理主義」的だといえるでしょう。 しかしながら9.11から5年たった現在、ブッシュ大統領の支持率は低迷の一途をたどっています。 9.11直後の強い怒りだけの感情から、「テロとの戦いのために、アメリカが築いてきた良い面を犠牲にしてはいけない」という気持ちへと、世論のゆり戻しがきているような印象も受けます。 ひるがえって日本はどうか。 小泉首相は高支持率のまま任期を終えそうですし、自民党総裁戦は安倍候補への雪崩減少が起きています。 郵政民営化一色に塗り上げられた狂乱の衆院選といい、イメージだけで世論が大きな潮流にばかり流れていくのに、不安を感じずにはいられません・・・。
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Last updated
September 12, 2006 02:12:21 PM
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