BARの終わり…、そして始まり/5月30日(月)
バーテンダーのN君から先月末、店長をしているBAR「S」が5月いっぱいで閉店することになったという挨拶の葉書が来た。 彼が勤めるBAR「S」は95年にオープンした。大阪・キタの「東通り」というエリアのはずれ、キャバクラやビデオ・ショップ、カラオケ・ボックスが数多く集まる辺りにある。東京で言えば歌舞伎町のような、お世辞にも上品とは言えない、怪しげなロケーションだ。 だが、そんな周囲の雰囲気とは一線を画し、「和」の雰囲気を巧みに生かした店の内・外装は、当時としてはとても斬新な空間に感じられ、僕はたちどころに気に入ってしまった(設計は、大阪市中央区の「May Company」の真川セイジさん&大石桃子さんというお二人)。 店の表玄関には、高さ1.5mくらいの1枚の木戸(写真左)。窓も看板もなく、木戸の側に店の名詞が1枚張ってあるだけという、いかがわしい匂いがぷんぷんする店だ。僕も、最初に来た際は、この木戸を開けるのは相当勇気が必要だった。 そんなロケーションには想像もできないほど、実に居心地のいい、なごめるBARだったから、「究極の隠れ家」として開店当初から、関西のBARフリークの間では、知る人ぞ知る存在だった。僕も、よほどの親しい人間でない限り、他人には教えなかった。 その「S」が突然、店を閉めるという。「S」は、会社関係の人間とはまず顔は合わさない、安心できる場所だった。オープン以来、たびたび訪れてきた僕としては、閉店はとても残念で、すぐにも店に駆けつけ、N君に理由を聞きたかったが、仕事の都合もあって10日ほど前に、ようやく訪れることができた。 N君は、まだ30歳と若い。大阪のBAR業界では、知らぬ人のないHさんの店で長年修業して、その後、北新地のBARを1軒経て、この「S」の店長になった(写真右=Bar「S」のバック・バー。暖かいライティングに浮かび上がる障子が、素敵な「和」の雰囲気を創り出す)。 顔は、元プロ野球・ダイエーで、今は米大リーグで頑張っている井口に少し似ているが、漫才でいう「ボケ役」が上手で、あまり格好をつけない、とても気さくないい男だ。大阪には漫才師みたいな面白いバーテンダーが多いが、N君はとくにノリが軽いというか、面白い。僕はいつも、「もうちょっと、落ち着きと貫禄をつけんとあかんよー」と言っているが、それでも憎めないキャラのN君が好きだ。 「どないしたん? あんな葉書寄こして…。これから、一体どうすんの?」。カウンターに座るなり、僕はN君に尋ねた。すると、「あのぅ、すんませーん。『S』はなくなるんですけど、実は、僕がここ買い取って、名前変えてまたやるんですわー」とN君(写真左=店内の奥には4~6人が座れるテーブル席も)。 「なんやてー?! じゃぁ、やめるんやなくて、店は残るんやー」と僕。ただし、名前は新しいものに変えるという。「店のこの、せっかくの内装、どうすんの?」とさらに尋ねると、「いやー、店買い取るのに借金いっぱいしてしもたから、もう金なくてー、ほとんどこの(内装の)ままやりますー」と言う。 目を白黒させる僕を見て、N君は「お騒がせして、すんませーん」と言って笑っている(葉書には、店続けるなんて書いてなかったぞー!)。う~ん、これはN君に1本とられたかなー、なんて思ったが、店名が変わっても、N君も、この馴染んだインテリアも残ることがとても嬉しい。 BAR「S」は、名前を「P」と改め、6月6日に再オープンする。N君頑張れー!「S」が育んだ素晴らしい雰囲気を、大切に伝えていってねー(詳しいロケーションとか連絡先が聞きたい方は、僕の私書箱までメールをどうぞ)。