エンリコ・ピエラヌンティ:イタリア発エバンス的耽美/3月30日(木)
イタリアというのは不思議な国だ。誰にもつくれないようなスポーツ・カーや家具やファッションを創るセンスを持つ。料理もそのバラエティに富んだ独創性で、揺るがぬ人気を誇る。 お酒の世界ではワインのイメージが強いが、実は、イギリス以外では、世界有数のスコッチ・ウイスキーの消費量を誇る国。どんでもないモルト・コレクターもいる(例えば、あの自慢のコレクションを本にしてしまったザカッティのような…)。 そして音楽の世界では、カンツォーネやオペラだけでなく、意外なことにジャズを愛する人も多くて、優れたジャズ・プレーヤーも輩出している。そのなかでも、おそらくピアニストとして、いま最高峰にいる(と僕が思っている)のが、エンリコ・ピエラヌンティ(Enrico Pieranunzi)。 ピエラヌンティとの出逢いは、大阪・梅田のタワー・レコードの売り場。CDのそばに貼られていた紙(ポップ)に、「ビル・エバンスを思わせるリリシズム。とにかく素晴らしいバラードの名曲ぞろいです」と宣伝文句が書かれてあった。 騙されたと思ってもいいと、僕は早速そのアルバム「Special Encounter」(写真左=2005年発表)を買った。ピラヌンティ以外のメンバーは、エバンスとも一緒に演奏活動をしたことがあるポール・モチアン(ドラムス)に加えて、チャーリー・ヘイデン(ベース)。 真新しいレコードに針を最初に針を落とすときの興奮は、このCD時代には少ないが、1曲目を最初のフレーズを聴いた瞬間から、僕の心はもうその美しいメロディーに魂を奪われたようになった。 2曲目も、3曲目も、ほとんどの曲が素晴らしい、駄作がないアルバムというのはほんとに久しぶりだった。同時に、こんな素敵なピアニストを今まで知らなかった自分を恥じた(写真右=ピエラヌンティのもう一つの名盤「The Chant Of Time」=96年発表。同じ雰囲気のジャケットのアルバム「The Night Gone By」とともにオススメです)。 ピエラヌンティは1949年、ローマ生まれというから、今年57歳。プロデビューは1968年、19歳の時というが、注目され始めたのは80年代になってから。キャリアは結構長い、若干遅咲きのピアニストだけれど、イタリアではもうベテランの部類に入るのだろう(写真左=YAMAHAのシンセDX-7を駆使し、ジャズに挑んだ「Moon Pie」=87年発表=も話題に)。 ピエラヌンティの特徴は、やはり何と言ってもその耽美的な叙情性、そして流麗なピアノタッチ。しばしば「エバンス派」の1人と形容されるが、確かに、そのピアニズム(ヴォイシングやフレージンング等)には、エバンスの影響を色濃く感じられる(本人はそう言われるのを嫌がるかもしれないが…)。 そして、スタンダード曲はもちろん粋な解釈で聴かせてくれるのだが、オリジナル曲のメロディーがこれまたいい。耳に忘れられない美しいメロディーを創る才能は、これまたエバンスに匹敵すると言っていいだろう(ラテン系のイタリア人=陽気なノリという先入観を見事に裏切ってくれた)。 最近はもっぱら、このピエラヌンティにはまっている。静かな深夜、灯りを暗めにして、彼のアルバムを聴くときの心地よさと言ったら、例えようがない。エバンス的魅力を持ちつつ、現代的なセンス、軽やかさも持ち合わせるピニスト。貴方もこの至上の幸福感をぜひ体感してほしい。人気ブログランキングへGO!→【人気ブログランキング】