福山・鞆の浦:後世へ守りたい歴史的景観/4月28日(月)
「福山は何県にあるか知ってる?」と聞かれて、すぐ「広島県」と答えが出る人って、どれくらいの割合でしょうか。恥ずかしながら、僕も社会人になるまでは、中国地方のどこかくらいの認識しかありませんでした。 そんな福山へ日帰り出張があり、ついでに周辺にも足を伸ばしてきました。現在は広島県東部の中核都市である福山は、江戸時代から福山藩の城下町として栄えてきました。 福山藩は1619年(元和5年)の水野勝成の入封に始まり、その後松平氏、阿部氏へと藩主を代えながら、明治維新まで続きました。山陽新幹線に乗られたことのある方なら、岡山と広島の間にある福山駅のすぐ北側に見えるお城に記憶があるかもしれません(福山駅には一部の「のぞみ」もとまります)。 天守閣は米軍大空襲で焼けたため、現在は再建天守です。しかし城内に残る「伏見櫓」=写真左上=は、あの秀吉が晩年を過ごした伏見城から移築されたことが確認されている数少ない建物です。秀吉もこの櫓に足を踏み入れたかもしれないと思うと感慨深い気持ちになります。 現代の福山は、JFEスティール(旧日本鋼管)の企業城下町です。約46万人の福山市の住民のうち、5人に1人は何らかの形でJFEにかかわる仕事をしているとも言われます。 他に有名な地元企業と言えば、福山通運、洋服の青山商事(本社があります)、常石造船、アラヤ商事…等々、結構全国的に知られる会社があります。そんな福山で以前から、一度訪れてみたかった場所がありました。 鞆の浦(とものうら)。JR福山駅から南(海の方)へバスで30分ほど揺られると、江戸時代にタイムスリップしたような港町に着きます。潮の香りにつつまれ、カモメが飛び交う、この風光明媚な景勝地が鞆の浦(鞆港とも言います)=写真右上。 鞆の浦は、江戸時代の港湾施設(階段状の船着き場や常夜灯など)と町並みがほぼ一体で残っている、日本でも数少ない貴重なエリアです。 万葉集でも「吾妹子が見し鞆の浦のむろ木は常世にあれど見し人ぞなき」と歌われたように、古くから大陸交易の船が船出の日和を待つ「潮待ち港」として知られてきました(写真左=時間が止まったような、静かな家並み)。 歴史上での重要な舞台としても何度も登場します。江戸時代には北前船が往来し、李氏朝鮮からの使節団「朝鮮通信使」が江戸幕府への行き来の途中に滞在した迎賓館「対潮楼」という建物も残っています。 また、幕末にはシーボルトも訪れたほか、海援隊の船「いろは丸」が備後沖で紀州藩の船と衝突・沈没し、坂本龍馬が紀州藩との賠償交渉(いわゆる「いろは丸事件」)のため滞在した建物=写真右=など、名所・旧跡が数多く見られます。 そんな鞆の浦地区の家並みには、懐かしい風情に溢れています。町を歩くと、古い造り酒屋が多いことに気がつきます。面白いことに、店先でもっとも目立つ形で売られている商品は日本酒よりも、「保命酒」(ほうめいしゅ)という薬草系のお酒です。 保命酒は16種類の漢方薬を原料につくった養命酒のような酒ですが、養命酒ほど甘くも苦くもありません。ある酒屋さんでロックで試飲させてくれましたが、とてもまろやかで、オロロソ・シェリーに通じる味わいです(写真左=江戸期にできた岸壁の常夜灯)。 どちらかと言えば、食前酒向きのリキュールという雰囲気で、カクテルのベースにも使えそうな、優しいお酒です(実際、保命酒をベースにオリジナル・カクテルをつくったバーテンダーもいます)。ちなみに、この保命酒は幕末、日本へ来航したあのペリー提督をもてなす宴席で供されたという記録も残っています。 せっかくだから、僕は土産に保命酒の小瓶(写真右)を買って帰り、大阪キタの馴染みのバーで早速、広島のあるバーテンダーが創作したという保命酒ベースのカクテル「Whisper Bridge」をつくってもらいました=写真左下。保命酒30ml、ピーチ・リキュール15ml、ライム・ジュース15ml、グレナデン・シロップ少々。とてもバランスのいい中甘口カクテルでした。 話は変わりますが、いま広島県や福山市が、この鞆の浦の湾内の一部を埋め立て、湾をまたぐ道路橋を架ける計画を進めようとしています。地元住民らからは「歴史的な景観の破壊につながる」として、強い反対運動が起きています。僕が訪れた際も、住民たちが反対の署名活動をしていました。 住民たちは昨年9月、広島地裁に国による埋め立て免許交付の仮差し止め申請をしましたが、広島地裁は3月、申し立て自体は却下したものの、景観利益や排水権を主張した住民らの「原告適格」は認める決定をしました。裁判は本訴である「差し止め訴訟」が進行中で、住民らの闘いはさらに続きます。 歴史的景観は一度破壊してしまうともう二度と元には戻せません。住民たちは、架橋案に対して「別ルートにしてトンネルを造った方が安上がりで、景観も守れる」と具体的な代案を示していますが、役人たちはあくまで架橋案にこだわり、税金を無駄遣いしたいようです。 世界遺産に指定されてもおかしくないような場所なのに、官のレベルの低さには嘆かわしくなります(国も地方もレベルの低さは似たようなものなのかもしれません)。反対住民の皆さんの闘いを遠くから支援していきたいと思います。こちらもクリックして見てねー!→【人気ブログランキング】