北京への旅(10)番外編:旅を通じて感じたこと/11月26日(火)
北京の旅、最後は番外編。旅を通じて感じたことをあれこれ記します。 ◆世界最悪の交通渋滞と守られない交通ルール 一昨年訪問した上海もそうだったが、北京も交通ルール、運転マナーは滅茶苦茶である。車はすれすれ、ぎりぎりまで突っ込んでくるし、割り込みは当たり前。 横断歩道の信号もあってないようなもの。歩行者は青であっても、左右から突っ込んでくる車を常に注意しながら渡らなければならない。 長期滞在者も、慣れるまでは車の運転は命がけだろう。車がなくても過ごせなくはないが、地下鉄は駅の間隔が長く、そう便利でない。料金の安いバスは市民で常にぎゅうぎゅう詰めで、外国人が割り込むのは至難の業である。 乗車時の整列乗車のマナーも昔に比べてましになったようだが、バスの停留所ごとに制服を着た整列マナー指導員が立っている現状からみると、やはりまだマナーはそうは良くはないのだろう。 加えてひどいのは中心部の交通渋滞で、世界最悪とも言われる。幹線道路は結構広く、車線も多いのだが、常に車がひしめき合っている。 15~20分で行ける場所に常に1時間もかかる。今回の観光ではほとんど車で移動したが、時間が読めないので、常に早め早めに行動した。 もちろん政府も手をこまねいているわけではない。市郊外に環状に高速道路をどんどん建設し、渋滞の緩和につとめている。中心部に乗り入れる車も、ナンバーで規制している。 しかし、それでもこれだけ渋滞が続くというのは、マイカーの急増に対策が追い付いていないことの表れだろう(写真左=景山公園の山頂から見た北京の空はかすんでいた)。 地下鉄等の公共交通機関をもっと整備して、利用を促進しない限り、北京はいつまで経っても、国際的な近代都市とは呼べないのではないか(写真右=天壇公園の一角で麻雀に興じる市民)。 ◆見た目はそうひどくなかった大気汚染 訪れていた四日間、北京の空気は見た目はそうひどくはなかった。ひどいと言われていたので、覚悟はしていたが、マスクをする必要はなかった。 毎日短時間だが青空も見えたし、市民でもマスクをしている人は、驚くほど少なくなった。ただ、わずかの滞在だったので、僕らには北京の大気汚染は改善されているのかは、よく分からない。 北京市当局は毎日PM2.5の値を発表しているが、市民はそんな数字を信じていない。「在北京の米国大使館が発表する値の方(当局発表よりいつも1ポイント高いという)が実態に合っている」という市民もいる。 今後、本格的な冬を迎えると、工場や市内外の一般家庭は、ほとんど石炭などの化石燃料を暖房に使うので、汚染は悪化することはあっても改善することはないと言われている。 GNPは日本を抜き、世界第2の経済大国になった中国だが、前段で書いた交通対策、環境対策は、他の先進国に大きく遅れている(写真左=市場の干物店では、干し松茸が売られていた)。 ご承知のように共産党の一党独裁国家である。政府が号令をかければ、対策は一気に進むはずだが、そこはさまざまな利権が絡んで、対策を足踏みさせているのだろう。 しかし、大気汚染は一般市民も政府(共産党)幹部も平等に被害を及ぼす。いずれ中央政府も対策に本腰を入れざるを得ない時期が来るに違いない。 ◆長期滞在者と反日ムード 北京には現在、長期滞在の外国人は5万人とも10万人とも言われ、このうち日本人は約1万2千人という。北京の友人は普通の賃貸マンションや借家ではなく、ホテルに併設された長期滞在者用のマンションに住んでいた。 部屋の掃除もしてくれるし、ホテルを通じて日本情報や北京市内の情報などが手軽に得られるし、なによりも安全という。 買い物や移動も比較的便利なので、民間企業だけでなく、外交官でも今ではこういうマンションに住む人が多いという(写真右=三里屯のショッピングセンター。偽ブランド品も含めあらゆるものを売っている)。 友人は日本の現地合弁メーカーに勤めている。中国では、外国人資本だけでの会社設立は認められておらず、必ず現地の中国人のビジネス・パートナーが必要となる。 この法的ルールは大きな会社から小さな飲食店まですべてに適用される。反日ムードが漂う中国で、ビジネスをするのは苦労も多い(写真左=日系スーパーで売っていた見たこともない魚)。 尖閣国有化問題が起きた時は、北京でも反日デモが繰り広げられた。デモ参加者の多くは地方出身者と聞くが、北京市民でも共感する人は少なくないという。 反日デモが激しかった頃は、さすがに友人や家族も外出を控えたという。彼の会社にも当然、現地採用の中国人社員がいる。秋には社内運動会を開いたりして家族的な会社づくりに努めている。 日本が嫌いだからと言って、退職するような現地社員は皆無だ。友人は「本音ではどう思っているのかは分からないが」とも言う。現地社員たちも「そこは仕事だ、雇用が大切だ」と割り切っているという。 中国各地で日系スーパーや日系企業が略奪や焼き討ちに遭っていた頃、友人の妻は、いつも行く市場の馴染みである店でも、いっさい口を聞いてもらえなかったこともあった。 しかし、「どんなに日本バッシングがひどい時でも、いつも通り温かく接してくれた店主もいた」とも話す(写真右=三里屯のユニクロ)。 政治が、国家がどんなにいがみ合って対立しても、最後はやはり、個人対個人で理解し合えるはずだ。草の根の信頼関係をこつこつと築きあげていくことが、何よりも大切だと僕も信じている。 ◆芸術やスポーツ、科学は一流だが 政治体制は決して一流とは言えないが、ご存じのように、中国は昔から偉大で、天才的な芸術家、スポーツ選手、科学者は数多く輩出している。 ただし芸術や科学の分野では、中国国内の“息苦しさ”を嫌って、欧米の国に帰化したり、市民権を取ったりして活躍する人が多い(写真左=日系スーパーでは日本のおでんも売っていた)。 今回の旅でも、中国のすぐれた作品に数多く出合った。アート作品ではないが、今なお開発が続く北京市内には、風変りで、独創的な建築が数多く建てられ、日本ではあまり考えられないような、フォルムの建物が目立つ。 例えば、中国中央電視台(CCTV)=中国のNHKみたいな放送局=の新ビル(写真右)は、なぜこの形にする必要があったのか、よくわからない。 「“つなぎ”の部分で働いている人はどう感じているのか」という奇妙な建物。耐震性や使い勝手はよく分からないが、確かに斬新で、個性的ではある。 芸術作品も数多く見たが、僕は現代アート作品にも、中華民族の多様な可能性を感じた。とくに印象的だったのが、「Spin」という上海発の陶芸家集団。 直売ショップを北京市内にも展開(写真下左)しているが、「現代の景徳鎮」を目指し、とてもモダンでおしゃれな器ばかり。ひと目見て気に入ったので、Bar・UKで水差しに使えそうな器を衝動買いした。 13億人を超す人口を抱える中国には、潜在的な才能が溢れている。しかしそれが政治の分野で育たないのは、実に残念というしかない。経済は、もう完全に自由主義経済に組み込まれており、グローバル枠組みからは孤立して生きてはいけない。 次は、政治が近代化する番であろう。やがては人治ではなく法治の国にならざるを得ないし、一党独裁が未来永劫続くとは、とても思えない。それは中国の長い歴史が教えてくれている。 ◆お土産に何を買ったか 家族や友人、そして自分たちへのお土産に何を買おうか、あれこれ考えた。結果、僕らが購入したのは、以下のようなもの。いわゆる有名観光地(故宮や万里の長城など)では結局、絵葉書1枚も買わなかった。 ・シルク製品(小物入れ、シューズ入れ、ボトルカバー、ランチョン・マット等々=いずれも驚くほど安く買える)(写真右=シルク製品を買った店)。 ・中国茶(そこらの土産物の店は残留農薬が不安だったので、まだましかと思って日本人が経営するお茶専門店で買った)/月餅(季節柄、いちおう定番だったし)/干し貝柱(日本でも中華街で買えるけれど) ・ニンニク風味の緑豆(友人が「これは安くて旨い酒のアテ」と教えてくれたもの。やみつきになる味!)/バイオゴールド・パール・ジェル(真珠の粉を丸めたものがジェルの中に入ったもの。知人からの依頼。効果の程は?) ・貴石や真珠を使ったネックレス。好きな石を選べば、その場で30分程度でつくってくれる店がある(これが信じられないくらい安い。連れ合いはまとめ買いした)/中国伝統切り絵(小さな額に入れて飾る、伝統的な花をモチーフにしたものを買った) ・スコッチモルト・ウイスキー(老酒はあまり好みではないので、結局免税店で「グレンリベットの18年」を購入(笑))