【改訂新版】カクテル--その誕生にまつわる逸話(24)Clover Club/12月23日(金)
24.クローバー・クラブ(Clover Club)【現代の標準的なレシピ】ジン(30)、ライム・ジュースまたはレモン・ジュース(15) グレナディン・シロップ(またはラズベリー・シロップ)(15)、卵白(1個分) 【スタイル】シェイク ※ベルモットを加えるレシピもあります。 日本ではあまり馴染みのないカクテルですが、欧米の古い時代のカクテルブックには、必ずと言っていいほど登場する代表的なクラシック・カクテルです。欧米では、「バーテンダーなら必ずおさえておかねばならない重要なカクテルの一つ」と位置づけられています。カクテル名は米国フィラデルフィアにあった同名の社交クラブ(1882~1929?)に由来すると伝わっています(出典:Wikipedia英語版ほか)。 正確な誕生の時期や経緯は不明ですが、1909年に出版されたカクテルブック「Drinks」(Paul Lowe著=現時点では初出文献)に掲載されていることや、1911年の米国の新聞広告にもその名が登場していることからも、少なくとも1900年代には誕生していたことは間違いありません。 生卵が入るカクテルというと驚かれる方も多いかと思いますが、米国の禁酒法(1920~1933)以前に誕生したカクテルには、このクローバー・クラブのように卵白を使うカクテルが結構多いのです(卵白の代わりに卵黄を使う場合は、「ロイヤル・クローバー・クラブ」と呼ばれる)。 なぜ生卵を使うカクテルが流行したかについては諸説ありますが、一番信憑性があるのは、氷がとても高価であった時代に、カクテルを飲みやすくする工夫の一つだったという説です。ちなみに、よく似たレシピのカクテルに「ピンク・レディ(Pink Lady)」がありますが、こちらはライム(レモン)・ジュースは入りません。 参考までに、1910~40年代に出版された主なカクテルブックで「クローバー・クラブ」のレシピを見ておきましょう。 ・「173 Pre-Prohibition Cocktails」(Tom Bullock著、1917年刊)米 ジン2分の1ジガー、ドライ・ベルモット2分の1ジガー、ラズベリー・シロップ1ポニー(末尾【注】ご参照)、卵白1個分(シェイク) ・「ABC of Mixing Cocktails」(Harry MacElhone著、1919年刊)英 ジン3分の1、スイート・ベルモット6分の1、ラズベリー・シロップ1tsp、卵白1個分、ライム(またはレモン)・ジュース4分の1個分(シェイク) ※「ロンドンではこれまでラズベリー・シロップの代わりにグレナディン・シロップが使われてきた」とのコメントが添えられている。 ・「Cocktails, How To Mix Them」(Robert著、1922年刊)英 ジン3分の1、ドライ・ベルモット6分の1、ラズベリー・シロップ1tsp、ライム・ジュース少々、卵白1個分(シェイク) ・「The Savoy Cocktail Book」(Harry Craddock著、1930年刊)英 ジン3分の2、グレナディン・シロップ3分の1、ライム・ジュース1個分(またはレモン・ジュース半個分)、卵白1個分(シェイク) ・「Cocktails」(Jimmy of the Ciro's著、1930年刊)米 ジン3分の1、ドライ・ベルモット6分の1、グレナディン・シロップ12分の1、ライム・ジュース12分の1、卵白1個分(シェイク) ※「お好みでドライ・ベルモットの代わりにスイート・ベルモットを使ってもよい」とのコメントが添えられている。 ・「World Drinks and How To Mix Them」(William Boothby著、1934年刊)米 ジン4分の3ジガー、グレナディン・シロップ1tsp、レモン・ジュース4dash、卵白1個分、最後にナツメグ・パウダーを振る(シェイク) ※ドライ・ベルモットを使うバージョンも併記している。 ・「The Artisty of Mixing Drinks」(Frank Meier著、1934年刊)仏 ジン1グラス、グレナディン・シロップ1tsp、レモン・ジュース半個分、卵白半個分(シェイク) ・「Waldorf-Astoria Bar Book」(A.S. Crockett著、1935年刊)米 ジン1ジガー、ラズベリー・シロップ2分の1ポニー、砂糖0.5tsp、レモン・ジュース半個分、卵白4分の1個分(シェイク) ・「Old Mr Boston Bartendr's Guide」(1935年刊)米 ジン45ml、グレナディン・シロップ2tsp、レモン・ジュース半個分、卵白1個分(シェイク) ・「Trader Vic's Bartender's Guide」(Victor Bergeron著、1947年刊)米 ジン45ml、グレナディン・シロップ4dash、ライム(またはレモン)・ジュース半個分、卵白1個分(シェイク) ・「The Official Mixer's Manual」(Patrick G. Duffy著、1948年刊)米 ジン3分の2、グレナディン・シロップ3分の1、ライム・ジュース半個分、卵白1個分(シェイク) 以上のように初期の頃は、レシピにかなり”揺れ”が見られます(とくに、ベルモットを使うかどうかという点で)。現代では冒頭に挙げたようなベルモットを使わないレシピが主流となっていますが、ベルモットを使うレシピも依然生き残っています。 「クローバー・クラブ」は、日本でも少なくとも1920年代には伝わってた古典的なカクテルです。大正12年(1923)頃、東京・京橋でバー「アマチュア・スタンド」を開き、その後昭和4年(1929)、JBA(現NBA=日本バーテンダー協会の前身)の初代会長にもなった荻野直寿氏が「得意なカクテルにしていた」という逸話も伝わっています。 ただし、日本ではかつては、バーで生卵の保存法や卵白を使いこなす技術等が十分ではなかったため、広く普及するところまでには至りませんでした。現代の日本のバーでも比較的よく提供されている、卵を使うカクテルは「ミリオン・ダラー」「ピンク・レディ」「エッグノッグ」くらいで、この3つ以外はあまりメジャーなものにはなっていません。個人的にはそれがとても残念です。【確認できる日本初出資料】「コクテール」(前田米吉著、1924年刊)。レシピは、「ジン3分の2オンス、ドライ・ベルモット3分の1オンス、卵白1個分、グレナディン・シロップ0.5tsp、ライム・ジュース少々」となっています。【注】ポニー(Pony)とは、かつて使用されていた液量単位。1オンス(約30ml)にほぼ同じ。・こちらもクリックして見てねー! → 【人気ブログランキング】