【改訂新版】カクテルーーその誕生にまつわる逸話(追補2)Sol Cubano(ソル・クバーノ)/2月24日(日)
追補2. Sol Cubano(ソル・クバーノ)【標準的なレシピ】(液量単位はml)ラム(45~60)、グレープフルーツ・ジュース(45~60)、トニック・ウォーター適量、氷数個、グレープフルーツのスライスで蓋をしてストローを指す。生ミントを上に飾る。【スタイル】ビルド(大ぶり<240~300ml程度>のコブレットかサワー・グラスを使うことが多い) 「ソル・クバーノ」はおそらく、日本人がつくった現代のカクテルの中では、日本国内では最も有名なカクテルではないかと思います。今では全国どこのオーセンティック・バーで「ソル・クバーノ」を頼んでも、問題なく通じるでしょう。 誕生したのは、1980年に開催された第1回トロピカルカクテル・コンテスト(サントリー社主催)。そこで選ばれたグランプリ10点の中から第1位に輝いたのがこのカクテルでした。カクテル名は「キューバの太陽」という意味。考案したのは、当時神戸市のバー・サヴォイ(現在は「サヴォイ北野坂」オーナー・バーテンダー)に勤務されていた木村義久氏(1946年生まれで、現在72歳)です。 「グラマラスな南国の美人と、ラムの原産国であるキューバをイメージし、創作した。グラスに載せたグレープフルーツのスライスは現地の女性が被るフラワーハットを表現した」そうです(出典:「木村義久カクテルブック」=2017年、神戸新聞総合出版センター刊)。 折しも、日本では70年代後半からトロピカルカクテルがブームとなっていた時代でした。木村氏が考案した当時、グレープフルーツはまだ若干高価な輸入果物で、(今では1個100円くらいですが)1個250~350円もしました。グレープフルーツはもっぱら、ジュースとして飲むか、半分に切って砂糖を載せて、スプーンで味わうスタイルが一般的でした。 オーセンティック・バーでは、ウオッカにグレープフルーツ・ジュースを混ぜるカクテル「ソルティドッグ」がようやく日本で知名度が出てきた頃でした。「ソル・クバーノ」は、ホワイト・ラム、グレープフルーツ・ジュース、トニックウォーターという身近にあるシンプルな材料の組み合わせ。程良い甘さと爽やかな酸味のバランスは、たちまちカクテル好きのお客さんに受け入れられました。 木村氏は「グレープフルーツの価格は今はまだ高いが、生産量は多いので、いずれ日本国内にも広く普及して手頃な値段になる」と予想しました。つくり方も手軽なビルド・スタイル。グレープフルーツの価格が安くなるにつれて、提供するバーもどんどん増えていったのです。 なお、「ソル・クバーノ」はあまりにも急速に普及してしまったため、普通のロングカクテルのようにタンブラーで提供したり、グレープフルーツ・スライスで蓋をしないスタイルで出すバーも見受けられます。しかし、木村氏のオリジナルは冒頭のようなスタイルなので、提供するバーはできれば、この本来の形にこだわってほしいと願います。 フードライターの曽我和宏さんよれば、ソルクバーノ」についてこんなエピソードがあるそうです。少々長いですが、引用させて頂くと(出典:曽我和宏の「気になる1杯」)。 「昔、木村さんが知人と横浜のバーを訪れた折りに、メニューにあった「ソルクバーノ」を注文した。その時、横浜の某店のバーテンダーは『これほどスタンダードになってしまったカクテルを考えた人は、もう他界してしまっているでしょうね』と言ったそうだ。彼はそれほど古くからあるのだからスタンダードになっているのだと言いたかったのだろうが、流石に死人にされてはたまらないと、周りが木村さんを紹介したそうだ。木村さんが名刺を出した際には、あまりの意外さに周囲からどん引きされたと話していた」。 ちなみに、考案当時は下記の日本初出資料にあるレシピでつくっていた木村氏ですが、近年はホワイト・ラム45~80ml(飲み手のお酒への強さや好みで調整)、グレープフルーツ・ジュース60ml、トニックウォーター60mlという分量でつくっておられます。かなりアルコール強めな味わいで、ラムの香りもしっかり楽しめます(レシピ出典:「木村義久カクテルブック」)。 最後に今回、木村氏自身に聞いた、とっておきのエピソードを紹介しておきましょう。 木村氏は、このソル・クバーノで優勝したご褒美として、1980年の秋、主催者のサントリー社からニュー・カレドニアへの旅に招待されました。旅先で開催された現地でのパーティーでカクテルを振る舞いましたが、当時34歳で独身だった木村氏に、そのパーティーで「運命の出会い」がありました。 たまたま横浜から旅で訪れ、パーティーにも参加していた一人の日本人女性と出会い、それがきっかけで付き合うようになったのです。当初は遠距離恋愛。木村氏は休日になると、当時持っていたフォルクスワーゲンを運転して、神戸から横浜まで往復したそうです。二人は2年後に結婚。なので、ソル・クバーノは、奥様との“縁結びの神”でもあった訳です。【確認できる日本初出資料】「サントリー・トロピカルカクテル・ブック」(1982年刊)。レシピは「ホワイトラム30ml、グレープフルーツ・ジュース60ml、トニックウォーター適量、グレープフルーツ・スライス&生ミント(飾り)」です(現在のレシピは冒頭に掲げたもの)。こちらもクリックして見てねー!→【人気ブログランキング】