カテゴリ:エクアドル人のおっとを持つと
いよいよ土曜日。
おっとは午前中、かっちゃんのために注文したワゴン車をガットと一緒に工場に見に行き、わたしは市役所にでかけたりして過ぎた。昼からガットも一緒に買出しに着いてきたが、彼も「今日、本当にだいじょうぶかよ~?」と不安そうである。 買出しを済ませ、家に戻るとわたしはさっそく夕食の準備にかかり、おっとはガットを送った後、掃除をはじめた。 メニューは手巻き寿司とから揚げ、ポテトサラダ。 これまで何度か、目目さん夫婦に手伝ってもらったり、ちょっとお手伝いをしたので、だいぶパーテイの仕込みに慣れてきたことを感じる。おっとも掃除を済ませたあと、慣れた手つきで海老をまっすぐになるよう、竹串に刺して小さな鍋でゆで始めた。←目目夫さま直伝 テーブルセッティングも整い、約束の夜の8時半の5分前。 ウイリアムは当然まだ来ない。10時までに来たらいいか。。。それまでかっちゃんたちとは契約の話題は避けよう。 8時半になったと同時にかっちゃんから電話があった!「すみません、ちょっと遅れます。9時までには着きますから!」←さすが時間に正確な日本人である。 9時3分前。珍しくウイリアムがたったの27分遅れで現れた。やはりおっとのことが心配だったんだろう。 しかしかっちゃんはまだ来ない。 9時きっかりにかっちゃんから電話が。「道に迷っちゃったんですけど。。。」 かっちゃん、あんた正確や!正確すぎるっ!! それから約30分間、おっとが助手席のイタリア人の彼女に電話を通してナビをして、無事にかっちゃんが家に現れたのだった。 玄関を開けるなりかっちゃんは土下座でもしそうな勢いで「本日は遅れまして、どうもすみません!」と日本語で頭を120度ほどにも下げた。 わたしは面喰らって「いやあ、そんなたいしたことじゃないよ。家で待ってるだけだったし、気にしないで。」とモゴモゴ言うと、そばにいた彼女も「わたしも、そう言ったんだけど。。」と口を挟む。 かっちゃんはちょっとムッとして彼女をにらんで「だって、日本人のお宅だし、時間厳守が当たり前なんだよ!」 わたしは心の中で拍手した。 おっとは感心したように見ていた。 ウイリアムは理解が出来ない顔をしていた。 みんなで席に着く。やっとわたしは落ち着いて、かっちゃんと噂の婚約者を見ることが出来たのだった。 かっちゃんは、いかにも「駐在員タイプ」である。 どういったらいいのか、自己的統計によると、イタリアの留学生あがりの社会人は、たいがいこちらに何か私的な目的があって留学してきて、そのままこの国に居座っているひとばかりだから、なんだか欲に燃えている、というかねばった感じがするというか、濃い~ひとばかりだ。 それに対して駐在員のたいがいは、自分の意思ではなく、会社命令で来ているものだから、この国に対する執着が薄いし、会社に保護されているから「イタリアで生活するひと」ではなく切り離された「日本そのままの生活をするひと」の臭いがして、薄味な感じだ。 かっちゃんは、そんなひとだった。 それに比べて噂の彼女は予想はしていたが、お歳がかなり上のようである。 背が低くてやせ気味、しっかりもののお姉ちゃん、といった感じ。 わたしの隣の席に着くなり「どうやっておふたりは知り合ったんですか?」という言葉を皮切りに、すごい勢いでしゃべりはじめた。 今日はIKEAにケーキを買いに行って、すごく混んでいて遅れたこととか、かっちゃんが今夜の夕食のことで緊張しすぎて朝の5時から起き出してウロウロしていた、とか、とにかくとめどなくしゃべりまくる。 わたしは彼女が1/100秒ほど息継ぎをする間を狙って急いで「え~と、えと、この度はかっちゃんが研修の最終試験合格にかんぱ~い!」とグラスを持ち上げた。 かっちゃんは60点満点の試験に60点で合格。彼はエヘへ、と照れくさそうに笑った。 彼女「試験日早朝まで勉強した甲斐があったわね!」 さすが、日本人は勤勉で優秀だなあ。。。ほろり。 これをきっかけにやっと彼女は少し落ち着いて寿司を食べ始める。 きちんと箸の反対側で大皿から具を取り、きれいに手巻きにする姿に感心したが、テーブルの向こうでそんなことにおかまいなしにガツガツと寿司をほうばっているおっととウイリアムを見ると(しつけ不行き届き)、手放しに褒めるのもイヤミかな、と黙って見ていた。 彼らの家では猫を2匹、飼っているという。 わたし「あ~、うちも猫が欲しいんだよね。天井裏にねずみが住んでるみたいだから。」と言ったのが運のつき! 今度は猫の話題を息継ぎもなくしゃべりまくるではないかっ! ああ~、止まらない。 これって、元同僚のマリーナが自分の猫の話題を始めると止まらなかった現象に似ている。。。←一種の中毒症状だとわたしは判断している。 彼女はとうとう、わたしのほうに向き直り、全員にではなくわたしに集中的に猫話を話し出した。わたしはうんうんとうなずくだけである。 その間にかっちゃんは、おっとに仕事のことに関して何か聞き始め、おっととウイリアムと3人でテーブルは分裂する。 あかんやん!彼女抜きでこんな大事な話題に持ち込んだら!! 実は彼女の喋りの中からわたしはわたしのお嬢母を見い出していた。 こういうタイプは、自分が重要な話題から少しでもはずされると切れて、感情のみで話題をぶち壊すのである!←日本での結婚が壊されたのもこんなちょっとしたことがきっかけだった。 わたしは焦って彼女に「ちょっと待って。ジュース取ってくる。」と断って立ち上がり、冷蔵庫を覗き込みながら背中で様子を伺った。彼女はから揚げをつまみながらまだわたしを待っているようだ。グラスを洗う振りをして時間を稼ぐと、やっと彼らの話題に入っていったので、洗い物を続けながら聞き耳をたてた。 前日の我々の談話で、どうやって聞きだそう?と算段していた例の「前の職場」の話が意外にも簡単に、彼女の口から出たことに驚く。 数年前、彼はある日本の会社の駐在員として派遣されたものの、(やっぱりね。)その会社がイタリアから引き上げることになり、かっちゃんは彼女のために残ったようなのである。(愛だなあ、愛!) それから、彼の苦労がはじまったらしい。 あらゆるバイトを経た後、最後のとある日系の店でのバイトでは粉引きロバよりも、船こぎ人夫よりも、過酷な扱いを受け、辞めることを決意したそうである。(もちろん彼女が切れて暴れたこととかは言わなかった。) でもまあ、こうやって双方の話を聞けば、どっちもどっち。。。 前情報からの恐怖がここでかなり取れた。 かっちゃん「日系だから、と思って選んだのが間違いでした。」 日系? わたしはぐっと息が詰まり「。。。マルちゃんも妻が日系なんですけど?」とおそるおそる聞いたが、笑って流されてしまったのである。ナメルナヨ いよいよおっとから口火を切って、契約内容の説明がはじまった。 彼女とかっちゃんは待っていました、とばかりググッと身を乗り出す。 はっきりいって、おっとの出した条件はシビアで大企業の従業員のようにノホホンと出来ない内容である。 かっちゃんは難しい顔でうんうん、と聞き、彼女は「打てば返す」間合いでどんどん突っ込んでくる。きっと彼らなりにもいろいろと前相談をしていたんだろう。 話はほとんどおっとと彼女の間で進んだ。 事前に予想はしていたのだが、彼女はやはり時々不満の声を上げた。するとおっとは正直に運送会社から出る純利益をそのまま述べ、財布の底でもさらすかのように、我々の経済状態をあからさまにするのである! あほっ、駆け引きをせいっ、駆け引きを!! わたしは洗い物を止め、救いを求めるように何度もウイリアムを見た。ウイリアムはおっとの横で黙って聞いているだけで口を開こうとしない。 おっとは誰にでもそうなのだ!あまりに正直に、しかも誰かれ構わず全てを打ち明ける。極貧夫婦として恥ずかしいことこの上ないし、このおかげで今までいったいどれだけの問題を生み出したか!? 現在は現在で、我々には、まだかっちゃんのワゴン車の支払いをしていないから、銀行から融資されたお金が結構残っている。そのおかげで、それを目当てに金の亡ヤギや、ルイジなイタ公たちが、いったいどれだけ群がってくるんだ!? しかし。 この場合、おっとの「ウルウル目での正攻法(?)」は効を成したようだった。 彼女は、かっちゃんにおっとのお古のワゴン車じゃなくて、新しいワゴン車を提供する、という提案に胸キュンになったようだし、 運送会社から出る純利益から、諸費用を引いて、残りのおっとの収入の少なさ(?)を明らかにすると、さすがに彼女もあきれたのか、そこまでかっちゃんを思いやるおっと(?)に感動したのか、納得してうなずいた。←まったくこんな少ない利益で従業員を雇う必要性があるのか!?国際離婚思想率さらに上昇 そして、おっとは仕事上での嫌なこと、いいこと経験談をはじめる。 かっちゃんも仕事内容が、粉引きロバよりも、船こぎ人夫よりもずっとマシなことがわかってホッとしたようだった。 へえ、なんかうまく行きそうじゃない? ウイリアムもそう感じたのだろう。黙って立ち上がって、ソファに移動し、独りでTVを観始め、やがて夜中の12時も過ぎた頃、「遠いから、もう帰るわ。」と立ち上がった。 ウイリアムが出て行った後、場はぐっと和やかになり、日本茶をすすりながらまたもや猫の話に戻ったり(大汗)、日本の話をしたりと(ほとんど彼女のワンマンショーだったけど)、楽しく過ごしているうち、瞬く間に夜中の3時(!)になってお開きとなった。 かっちゃんは今頃、おっとと6月に始まる正式採用の前の予行演習のため、一緒に仕事をしているはずだ。 6月、土曜日に話し合ったことがそのまま契約書になるのだが、そのとき、彼女が話し合ったことをすっかり忘れて暴れださないことを祈る。。。。。チガウ←やっぱりまだこわい? お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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