テーマ:海外生活(7774)
カテゴリ:ご近所物語
昔に「エルトンの悲劇」を書いたのでその2。
ご存知の方もいらっしゃるかとは思うが、エルトンはおっとと同じ会社で働くブラジル人で、ご近所さんである。 先日離婚してから、というものなんとなく我が家に寄り付かなくなってしまったのだが、先週おっとが「エルトンに50ユーロ貸したからね。」と言ってきた。 もしこれが、あの我慢のならない国のコスティカとか、 友達だなんて絶対認めたくないピエトロとか、 前の家の近所の呑んだくれホセとか、 毎週末夜中にいつもおっとに電話をかけてきて、朝まで飲みに誘ってくる「ホモ田ホモ男」のような気持ち悪いイタリア人クラウディオだったなら、 火を噴いて怒るのだが、エルトンは違う。 エルトンはヤギの大量輸出国から来たにもかかわらず、まるで日本人の神経質な男のように律儀で細かい性格である。 きっと標準ブラジル人だった奥さんは、そんなところがウマが合わずに出て行ったのであろうとわたしは見ている。 とにかくそういう男なので、我が家を同じぐらい貧乏だとわかった上でお金を借りに来るとは、よっぽどの事情があるに違いない。 確かに奥さんが出て行ってからというもの、それまでも苦しかったエルトンの家計はますます苦しくなった。 家や家具のローンも全部ひとりで負担しなければならない上、2年前に1ヶ月間奥さんと帰省したブラジル旅行のローンもひとりで払わなければならないのだ。 しかしこれは、解決したんじゃなかったっけ? ***** なぜなら先日ボイラーが壊れたとき、エルトン宅にシャワーを使わせてもらいにお邪魔したときのこと。 玄関に子供の靴やヒールが脱ぎ捨ててあるのを見て焦ったわたし。「あれ、お客さん(新しい彼女?)が来てるの?」 エルトン「え?いくきーとに言わなかったっけ??この間からうちの一室を貸してるんだ。ひとりで住むのも寂しいしね。」 わたし「ああそう。。じゃあ、シャワーなんて使ったらお邪魔じゃない?」 エルトン「いいんだよ、今日はみんな外に出ていて遅くまで帰ってこないんだ。あがって、あがって。」 わたしたちは、というかわたしはおずおずと家にあがり、おっとが先にシャワーを浴びているうちに家の中を見渡した。 そういえば、暖房がついていて暖かい。 ついこの間までは「60ユーロもの毛布を買ったらおそろしくて眠れないよ!」とあらゆる衣服を厚着してガス代節約のために暖房すらつけていなかった。 おっとがシャワーを浴び終わり出て行くと、わたしが続いてシャワールームに入る。 一応お風呂セットは一通り持ってきたのだがみれば、先日のほとんど水の詰まったシャンプーの替わりに安物だが水を混ぜてないシャンプーも石鹸もあるし、なんだか安心した。 そうかそうか。借家人に家賃をもらって、ちょっとは潤ったんだ。 エルトンの家はいわゆる1LK?で寝室ひとつとシャワールーム、決して大きくないキッチンつきのリビングだ。 玄関の靴から推理するとシングルマザーと幼い娘に、寝室を貸しているのだな。 わたしはシャワーを出てドライヤーを忘れてきたことに気がついた。 わたし「エルトン、ドライヤー貸して。」 エルトンは「ぼくは持ってないよ。。(←ハゲ) あ、でも彼女が持ってるかも。」と寝室のドアを開けて、引き出しを捜し始める。 いつも思うのだが、これってやっぱり日本人と違う。 日本人なら、というかわたしはたとえ自分の引き出しでも、貸しているならそれはその間は自分の手から離れるから手をつけるのはプライバシーの侵害をしているみたいでイヤだ。 ヤギ達は、というか、留学生時代の体験から言わせてもらうと、ガイコク人たちはそれが平気らしい。 エルトンはなんなくドライヤーを見つけて「はい。」とわたしに渡した。←これも自分のものでもないのに無断で貸してしまうところが理解できない。 しかたがないので、わたしも使ったけど。汗 ドライヤー探しに寝室に入って気がついたのは、女性子供のものだけじゃなく、エルトンのものでもない男性のジャケットがベッドの上にあったこと。そして部屋の中がタバコ臭い。 疑問が持ち上がった。 わたし「エルトン、何人に部屋を貸しているの?」 エルトン「ブラジル人の家族に。旦那さんと奥さんと18歳の娘と2人のチビ。」 わたし「げ~!!!そんなにたくさんどうやってこの家で寝てるの?!っつ~か、あんたどこで寝てるの?」 エルトン「ぼくは夜になったらキッチンにマットを引いて寝てるよ。18歳の娘はそこのソファ、その他4人は寝室のダブルベッドだ。」 わたし「。。。。ちょっと多すぎやしない?これじゃあんたが家族のところにホームステイしてるみたい。」 エルトン「家賃収入のためだよ。小さい子供がいることで、ちょっと騒々しいけど癒されるよ。」 そ、そうなの?しかし同じ貸すにしても、そんな大家族に貸さなくても。。。 ま、本人がそれでいいならいいのか。 とにかく副収入が出来たことでエルトンは精神的にも安定したようでおだやかになったようだし、よかった、とその時は思ったのだった。 ***** 話は戻して なのに、 なんで今、50ユーロぽっちのお金が必要なんだ?? おっと「あの家族、実は無一文だったことが発覚したんだよ。どうりでエルトンが「ぼくがいないときに勝手にぼくのものを食べる!」といつもぼやいていたわけだ。旦那さんも奥さんも無職で仕事を探しているけど見つからなくて、エルトンも小さい子供までいるし、追い出すにも追い出せず、ひとりで5人の他人を養うはめになっちゃったんだって。」 わたしは頭をかきむしった。「わからないよ、どうしてそんなひとたちに家を貸したの?!こうなることなんかすぐにわかるじゃない!!」 おっと「彼ら、仕事はしてるって、家を見に来たときに嘘ついてたらしいんだ。」 OOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH,NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO................. わたし「。。。そんなのだったら50ユーロぽっちで足りないでしょ?でもうちはこれ以上は貸せないけど。」 おっと「違う、違う。この50ユーロはどうしても緊急でブラジルに送るためのお金だったんだよ。」 わたし「自分ひとりの身すら養えてないのに、仕送りしてるわけ!?」 おっと「違うよ。エルトン、2年前に帰国したときにあっちで新車を買ったんだ。毎月ローン分のお金を妹に送って、払ってもらっていたんだけどある日、お姉さんから電話があって「クルマのローンの支払いが何ヶ月も滞っているからクルマは返車していただきます。」って店から連絡があったらしい。」 わたし「それってどういうこと?」 おっと「妹がエルトンから送金されたお金をナイナイしてたんだよ。で、妹と話したら大喧嘩になって「払うわよっ!」(←当たり前だ!)という話になったのだけど50ユーロ分足りないらしい。」 わたし「。。。。。。。。。」 エルトン、可哀そう過ぎる。他人に裏切られるだけじゃなく、実の兄弟にまで裏切られてしまった。 わたし「。。。。。ね、今度うちにごはん食べにおいで、って誘ってあげて。」 おっと「そうだね。」 わたしは別に全てのヤギに鬼であるわけではないのだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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