テーマ:海外生活(7774)
カテゴリ:ご近所物語
ちょっと前にブラジルに帰省していたエルトンが帰ってきた。
彼が旅立つ前に我が家にお別れを言うついでに彼の家の鍵を預けに来たときは、汚い話だが、わたしは猛烈に気持ちが悪くて洗面所から離れられない状態だった。そのときだけはかろうじて寝室にヨロヨロと駆け込んでドアをぴったり閉め、床にうずくまってグッタリと、彼が用事が済んで出て行くのを息をひそめて待っていたのである。 ドアの外からはおっとが「いくきーとは今気持ちが悪いみたいで。」と言ってるのが聞こえ、エルトンが「可哀相に、じゃあもう行くよ。。。」と応対しているのでヤレヤレ、と思っていると、その瞬間ドアが開いて、わたしは朦朧とした意識の中「え!?」と顔も上げれないまま驚いた。 おっと「ほらっ、ごらんの通りの状態でね。」と、パジャマ姿もヨレヨレな床に這いつくばっているわたしを見世物にしているではないか!? わたし「うぐ。。エルトン、こんな状態でゴメン。」←しどろもどろ エルトンもおっとの突飛な行動とわたしのみじめな姿にしどろもどろに「あ。ああ、ごめん。」と慌ててドアを閉めなおしてそそくさと出て行った。 この時わたしはまったくデリカシーのないおっとに哀しくなったのだった。 そのちょっと前に彼が我が家に来たときは、両親が家に居たのだが、わたしはベッドの上で起きていたので、エルトンは寝室に入りドアをきっちり閉めた。 「もうすぐブラジルに帰るから、って理由でやっとあの4人の居候に出て行ってもらったよ。ああ、長くて苦しかった!」とさっそく報告。 しかし、うれしいながらも彼らが出て行く前に、エルトンをさんざんののしって「あんたなんかに神の加護はないわよ!!」と言われたことや(彼は敬虔な信者なので相当ショックだったようである。)、買って1年もしなかった上等なベッドマットが子供たちのオネショだらけになって、捨てる羽目になったことなど、早口で愚痴って出て行ったのである。 どうせ、親切にしたところでこういう結末になることは目に見えていたのだから、そんな恩知らずなやつ達はトットと冷酷に追い出してやればよかったんだ。 エルトンはブラジルにはご両親の結婚45周年のパーティに参加する名目で3週間ほど滞在したのだが、しっかりものの彼はその間、バカンスらしいこともせずいろいろと忙しかったようである。 わたしはつい最近知ったのだが、エルトンは実は日系3世ならぬ、イタリア系3世だったのだ。ブラジルという国は本当にいろいろな国の移民を引き受けているんだなあ、と感心した。 そこで今回の帰国にイタリアに帰化するための書類の作成、という目的が主だったらしい。 わたし「。。。でもカナダに移住するのになんでイタリア籍が必要なの?」 エルトン「そのためのイタリア籍だよ。向こうに行ったら、ヨーロッパ籍のほうが何かと都合がいいからね。それに今の家を誰かに貸す、となるときっとイタリアには戻ってこなければならないときもあるだろうから、そのとき簡単に入国できるようにするためさ。」 わたし「ふう~ん。。」 エルトン「それに、カナダに住んでみて住みにくそうならこっちに帰ってこれるしね。」 わたし「ブラジルじゃなしに?」 エルトン「ブラジルはだんだん経済的にマシにはなってきているけど、今回の帰国で国民性が肌に合わない、と感じたからもう帰らない。」 わたし「え~、自分の母国なのに、何がダメなの?わたしは日本が大好きだけどなあ。」 エルトン「暑い国だから人々が怠惰だ。だから絶対先進国入りはできないし、発展途上国のままだ。帰国してみてしみじみ感じたけど、あんなに毎日ソーセージと肉と豆ばっかり食べてビールばっかり飲んでいたら、早死にするよ。」 うう~ん、エクアドルもそんな感じだから的は得てる気はするけど、自国民が言う発言じゃないな。 とにかくそういうことで、エルトンは帰国翌日にはさっそく市役所に行って帰化の手続きもし、カナダ移住計画が着々と進んでいるようであった。 (わたしたちは、といえばおっとは気軽に「そのうち追いかける。」と言っていたが、子供もできてしまったらそれどころじゃなくなるのは目に見えている。それに、2人してそんな右も左もわからぬ言葉も違う外国で一から始めるぐらいなら、日本に移住したほうがわたしの負担は大きくなるけどまだマシってもんだ。) わたしは、仲のいいご近所さんが遠いところに引っ越すのが寂しい以上に心細い。 なぜなら、ヤギなおっとは、いくら説得しても週末の酔いどれ朝帰りはやめることがなく、夜中にそうやって酔って正体不明の時には携帯に連絡しても応えない。 そんなときにわたしひとりならともかく、もうひとりの命を抱えている状態で何かあったりしたら。。。とハラハラしてしまう。 そこで夜遊びもしない、お酒も飲まない、夜中でも電話したらすぐに来てくれるご近所の真面目なエルトンが、わたしの心の拠り所だったのだ。 実際彼もそこのところよく理解してくれていて「マルちゃんがいないときに何かあったら、ぼくにすぐに連絡するんだよ。」と言ってくれるのでおっとよりも心強いってのが、ちょっと情けないがうれしい。 彼がいなくなったらどうしよう。。。 せめてせめて、12月の出産時期ぐらいまでは居て欲しいな、などと都合のいいことを思っていると昨日もまた我が家に仕事帰りのおっとと共にやってきた。 我が両親は2日も前からミラノ中央駅前のホテルに滞在し、今朝帰国したので、ここのところうちに来るときはいつも緊張していたエルトンもリラックスしてみえた。 それはおっとは制服姿で現れたのに、同じ会社で働くエルトンが私服姿だから余計にそう見える、ということに気がついた。 わたしは冗談で「エルトン、制服が変わったの?」と聞くと、彼は笑って「うん、部署が替わったからね。」と応える。 わたし「え!事務職にでも移動したの?」←ホンキ エルトン「ううん、無職部。」 わたし「ゲ~~~???うそでしょ?!あ、転職先を見つけたんだ?」 エルトン「ううん、次の職はまだ見つけてない。」 わたし「ゲゲ。ゆ、勇気あるなあ。。」 エルトン「もう、我慢が限界だったからね。」 そうなのだ、おっととエルトンが働く運送会社は、わたしも一度社会見学をしたことがあるが、なんせガテン系なので、大将になるほどガラが悪くてこわい。 他の働く人々も「このひとたちはスラングしか知らないんじゃないか?」と思うほど汚い言葉でしゃべりまくる。おかげさまで簡単に環境になじむおっとはどんどんガラが悪くなっている現状である。 ところがエルトンはとことん育ちがいいらしく、このスラングを頑として嫌っているし、同僚たちと一緒に仕事の後、夜遊びもしないし、たまに休日の昼間のお酒の席でも飲まないので、いつもしらふで真面目なことばかり言っているようなので、どんどん仲間たちとは距離ができ、上司にはかなりいじめられていたらしい。 おっとは仕事上、腹の立つことがあっても上手に乗り越えられるようなのだが、エルトンの場合は不器用なので真正面からぶつかって大喧嘩になるのもしばしばだったみたいだ。 ずいぶん前からこのことは聞いていたから、彼がこの仕事を辞めることに関してはそんなに驚くことではなかったけれど、カナダ移住を目の前にしてどういうつもりだろう? エルトン「ぼくは頭がおかしくなったんだよ。」 まったくだ。 我が家ならまだこの会社の下請けだし、おっとがもし突然辞めたところでステファノの稼ぎと別の小口の仕事で繋いだら1ヶ月ぐらいやりすごせるだろうが、彼はここの従業員である。辞めてしまったらそれでお終いだ。 彼は、この間のブラジル帰省のときはちょっとお金が足りなくて、うちに借りに来たぐらいだ。 これからのカナダ移住を目の前にして家の中もリフォームするって言ってたし、カナダへの旅費、それから当面の生活費の貯蓄、諸々を考えるとこの先短いのに、今仕事を辞めるべきじゃないと思うのだが。。。 エルトン、他人のことながらとても気になるのである。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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