ジェノバに行く。 その伍
月曜日の朝。お腹がぐ~ぐ~鳴いて目が覚めた。それもそのはず、前日の夜はほとんど何も食べれなかったのだから。というのは、ぎこちないながらも海から帰ってきた夕方、わたしは背中にカティちゃんを背負い、びくびくしながら「あした、カティちゃんを一緒に海に連れて行ってもいいかなあ?」と聞いたことから始まる。すでにルイスたちはこうもりアルフォンツォから、わたしたちがローランドの奥さんと海に行くことを聞いていた。奥さんはちょっと怒りのオーラを漂わせながらも、ポーカーフェイスで「ああいいわよ、いってらっしゃい。ってことは今夜もうちに泊まるんでしょ?」げ。。。?もちろん、そんな気は更々ない。わたし「うう~ん。。もう、うちに帰らないと。。。着替えもそんなに持ってきてないし、金魚や植木の世話もあるし。」カティちゃん「え!金魚がいるの!?そりゃあ、うちにすぐ帰ってあげないと、金魚がお腹すかして死んじゃうよ。」そうそう、いいぞカティちゃん!!奥さん「そう、そりゃ帰らないとね。。。でも、わたし明日お店の定休日なの。あともう一晩泊まってくれたら、わたしも一緒に明日はどこかに行けるんだけどなあ。無理ね。」しかし奥さんの口調にはどこか絶対的なものがあった。わたしが実際の言葉とは裏腹にテレパシーで受け取ったメッセージは「あんた、ローランドの奥さんばっかりひいきして、あたしはどうだっていいわけ?!」という風に取れたのである!!あううううう。。。わたし「。。。えと、たぶん金魚はあともう1日ぐらい平気か。な??うん、じゃああと1日泊まるかな。。。」しぶしぶこう言うしかなかった。奥さんの顔はぱっと明るくなって「うれしい!わたし今から夕ご飯の支度を始めるから、いくきーとたちはビデオを観てて。」と実家から送られてきたというビデオカセットをプレーヤーにセットした。キトに居る、ルイス兄弟のお母さんは何か催し物があるたびにビデオを送ってくる。去年は親戚一同の親睦会のビデオを見せられた。ひたすらわたしが全然知らない親戚一同が飲んで酔っ払っているビデオを見せられて、ちっともおもしろくなかった。今回はお母さんのお姉さん、つまりルイスたちのおばさんが催した「闘牛」のビデオだった。このおばさんはキトから5時間クルマで行ったところの1つの山の大地主である。彼女はそこに住む原住民族たちの村で一緒にほったて小屋のような山小屋で生活している、良いように言うならばナチュラリスト、正直言うなら、原住民と同じように山高帽をかぶって髪を三つ編みにして、完全に原住民族たちに溶け込んでいる、ちょっと変わり者だ。わたしは基本的に闘牛をにくんでいる。可哀そうなパニックに陥った牛たちをよってたかって人間が挑発し、槍で突き刺しまくった挙句、弱った頃合いをみて、殺して英雄気取りするところなんか、ばかばかしく、腹ただしい。あんなものにお金を払ってまで観に行くような冷酷な人間にはなりたくない。今回は「おつきあい」で嫌々見た。しかし、最初の予想を裏切って、この「闘牛」は可愛いものだった。子牛や、若い牛を牧場の柵の中に放して、男だけでなく、女子供、犬までもが参加して牛たちの角(←角は危なくないように先を丸く削られてあった。)に結んである赤いリボンを真っ先に取ったものが勝ち、というものだった。 アンデスの山の中は霧が立ち込めていて、みんな厚着をしていて寒そうである。が、観客の原住民族たちは柵に鈴なりになってビールを飲んで酔っ払っている。軽快なラテン音楽にあわせて何人かが柵の中に入って子牛たちがあたふたと逃げ回るのを追い掛け回したり、追いかけられたり。ついにひとりのおばさんが果敢に若い牛に正面から立ち向かい、リボンを獲得した。授賞式には赤い旗とトロフィと、ルイスたちのおばさんの民族衣装の正装に着飾った17歳になったばかりの若い娘からのキッス。あとは飲めや唄えやの大騒ぎがひたすら続いた。そのあと場面が急に変わって、おばさんの家の納屋の中。そこには何頭かの巨大な豚がいる。おばさんは2人の女性と黙々と1頭の黒豚を引っ張り出した。豚はきーきー鳴いている。おばさんは暴れる豚と抑える2人の女性を背景に「ルイス、ローランド、アルフォンツォ、元気かい?」とメッセージを語り始めた。淡々とメッセージを語る背後で豚はすでに絞められぐったりとなっている。やがてお母さんがのこぎりのようなものを持って画面に登場した。お母さんはそれを豚の首に当て。。。。。OOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHHHHHHHH,NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!ここからわたしは画面を正視できなかった。目をぎゅっとつぶっていると、私の顔を見たカティちゃんが「このシーンが終わったら教えてあげる!」という。しばらくおばさんのメッセージの背後でのこぎりを引く鈍い音がしていたのだが、やがて止んだので、カティちゃんの合図のないままおそるおそる目を開けた。シーンは変わって庭になっている。2人の女性とお母さんがさっきの豚をさかさに木に吊るしていた。おばさんのメッセージはなおも続く。ちょっと待て。さっきとちょっと違う。。。。?OOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH,NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!なんとおばさんは左手ででかい豚の頭を持ち上げて、さっきと同じように淡々とメッセージを語っていたのであった!背後で女性たちはおしゃべりに興じながら、お腹をさばき、内臓を取り出しバケツに収め、まるでバナナの皮でも剥くように肉をでかいナイフでそいでいっているのだ!!まわりで汚い痩せた犬(それでも飼い犬)たちがおこぼれをおとなしく待っている。ビデオカメラはお母さんに向けられた。お母さん「もう、ここに来るといっつも汚れちゃうからイヤなのよ。」と泥と血まみれのトレーナーで更に手に付いた血をぬぐって笑う。今度は子供たちに移動する。彼らはまるで日本の戦後の焼け野原に生きる子供のようだ。汚れた顔で青っ洟を垂らして笑いもせずにカメラを凝視している。。。。。。ダメだ。わたしはひどいショックの中にいた。わたしはこんな山の中で1日たりとも生きていけないだろう。もしここで日本語のナレーションでも入ろうものなら完璧な「知られざる謎のアンデス」とかなんとかタイトルのつきそうなTV番組のドキュメンタリーのようなビデオである。しかし、しかし。。。このひとはいまやわたしの「親戚」なのだ!!!そう考えると複雑な気持ちが頭の中をめぐった。やがて「ご飯が出来たわよ~。」と奥さんが呼んだので一気に現実に引き戻され、みんなでキッチンに向かった。奥さんは料理上手である。わたしがレストランも含め、今まで食べた中で一番おいしいエクアドル料理を作る人だ。しかし、この日の献立はくしくも「豚の腸のアーモンドクリーム煮込み」だった。みなさん、もう想像できますよね?一応スプーンを口に運ぶまでは頑張ったんですけどね。。。。。。。。なんか前置きだけで長くなっちゃったんで続きは次回。(←いつまでも引っ張るなって?)