カテゴリ:ぴかままのいるところ
ベルリン時代の一時期、住んでいた家のすぐ隣に、ベルリン水道局の管理下の施設がありました。
旧給水塔。現代の水道システムになるより前に使われていたものです。役割は既に終えているものの、建物自体がDenkmalschutz(歴史的建造物保護)下にあるため取り壊しや改築が簡単には出来ないため、単に町の風景の一部と化している使われていない旧給水塔は、ここのみならずドイツ中に残っています。 ベルリンで最後に住んでいた家からわりと近くにあるPrenzlauer Bergの旧給水塔は、既に中を改造して、住居や幼稚園、イヴェントスペースなどとして使われており、私もそこでのコンサートで歌ったり、聴衆として聴きにいったりしたものでした。 その、前者の給水塔が、思いがけずasahi.comでコラムに載っているのを見つけました。 ゴージャス!給水塔ライフがその記事です。 この、Spandauer Dammの給水塔が住宅化されるというのは、私がいた頃から噂には聞こえてきていました。Denkmalschutz下にあるこの建物の改築許可が下りたのは私が帰国したあと。それがとうとう、間もなく完成して入居が始まるということのようです。 あの辺は緑豊かな落ち着いた住宅地と、大規模な市民農園とが隣接する地区。幹線道路でもあるSpandauer Dammの交通量は比較的多いものの、そのために空気が悪いと感じたことは一度もありませんでした。メインの交通機関が路線バスなので、路面凍結したりすると動きが取りにくくなって不便さを感じることもありましたし、パパッと徒歩圏内で買い物を済ませられない不便さもありましたが、裏道を抜けていけば地下鉄の駅まで一応徒歩で行けるしそこにはお店もあるので、決して超不便というわけでもありません。まあ、古くからの保守的住民が多く少々うざったく感じることもありましたが・・・。 こういう、歴史的な建造物を壊さずに再開発するというのは、壊して新築するのに比べて、実はよけいにお金もかかることなんです。こうやって昔ながらの街並みを守ろうとする試みには頭が下がります。 ただこういうのって、ヨーロッパの旧式建築だからこそできるという面が大きいんですよね。今でも新築のマンションよりも旧式建築の内部改築のもののほうが人気があるのは、外観ももちろんありますが、なによりも「壁の厚さ」と「天井の高さ」が大きいのです。特に壁の厚さ!日本の建物に慣れたかたからは想像も付かないほどの分厚い壁が、冬の寒さ、夏の暑さ(地球温暖化の影響か、昨今は欧州もけっこう暑くなるのです)、そして騒音も遮ってくれるのです。ですから、特に我々音楽家は旧式建築を選ぶ傾向があります。 大きな地震の多い、高温多湿の日本と、地震の少ない寒冷地のドイツでは、建物の「保ち」も違ってきますし、安全のための基準も違って当然。だから、こういう古い建物を壊さずに再利用するということを、そのまま日本に適用するのはとても難しい。そもそもの建築様式の伝統が全然違うのだし。むしろ、う~んと古い木造の伝統建築(社寺その他)のほうが、ずっと新しいコンクリートのビルより長持ちしているんですもんね。もちろん、腐食した梁だの柱だのを取り替えるメンテナンスをしているからではあるでしょうが。 我が職場の建て替え等の計画についての議論の末端に参加するに至り、当県の公共建築物が、たったの30年しか保つように作られてこなかったということを聞かされてまずショック。そして我が勤務校はそれをはるかに超過する40年、まともなメンテナンスもされぬままに使われてきたのだということもショック、さらにその建物が、設計通りに作られていなかったということ、つまり現場段階での手抜き工事で予定より貧弱に作られていたことを知って大ショック。加えて、そんな「欠陥建築」を壊して建て直すことに反対する人々が存在するということに、ショックというよりも呆れかえってモノも言えない、という状況に陥ったのでした。 反対する人々の横槍に振り回されたこの数ヶ月が過ぎ、ようやく計画を前に向かって進めることへのゴーサインが出ました(とはいってもまずは建物一棟だけ、ではありますが)。実際にその対策に追われたかたがたのご苦労は計り知れぬものがあります。夏休みなんて存在しなかったと聞いています。 建物は、使えてこそ存在価値があります。どれだけ歴史的な価値、芸術的な価値があろうとも、遺跡として展示するだけならまだしも、実際に日常的にそこを使って過ごす人間が居る以上、使えない、危険な建物はやはり壊して建て直すしかないのです。 古く美しいものを可能な限り残して、なおかつ使えるものにしていけるドイツをうらやましく感じはするものの、そもそもの造りが貧弱なものを残すわけにはいかないのです。 今度建てる建物は、現代の建築技術を駆使して、100年保つものを作って欲しいし、それを念頭に入れたメンテナンス予算をきちんと確保して欲しい。メンテナンスせずに放っておいてたったの3~40年で使えなくするなんてのは、長期的に見て公金の無駄ですから。経済的に厳しい時期ではあるけれど、今しっかりとお金をかけておくことが、将来の節約に繋がるのです。 ・・・というわけで私のレッスン室は数年後には新築の建物に移ります お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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