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まるまるさとこ

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November 15, 2005
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カテゴリ:小説



台所に立ち、洗い物をしながら
奈津子は今日の授業参観の時から
ずっと佐々木法子のことを考えていた。
本当にこんな偶然があるなんて、世間って
なんて狭いんだろう。いや、ほんとに偶然?
授業が始まり、母親たちを目の前に
緊張ぎみだったあの人は少しすると
いつものペースを取り戻したらしく
時折冗談を交えながら
算数の解き方を分かりやすく
子供に教えていた。
バリバリと授業を進めるタイプではないが
生徒たちは積極的にみんな手を挙げ、
それを平等に当たるように答えさせていた。
正解するとどこからかパペットを出してきて
(いつも使っているようで子供たちが
そのパペットの名前を呼んでいる)
「おめでとう、正解だよ!」とか
「うーん、ちょっと残念、もう1回見直してみて」
などと声を作ってしゃべり、
そのたびに子供たちは歓声を上げている。
なんか3年生なのにちょっと幼稚なやり方・・そう思ったものの
子供たちは楽しそうだ。
そして最後まであの人はこちらの方を見るわけでもなく
かえって意識して見ないようにしたのか
それともこちらのことは全く何も感じていないのか、
検討もつかずに、ただ自分だけが
全身を堅くし長い40分を耐えていた。

「ねえ、佐々木先生ってどこに住んでいるの?」
「・・・さあ」
ダイニングテーブルで宿題やっている祐也に
茶碗を拭きながら奈津子は尋ねた。
「先生、どうよ?」
「どうって?」
「勉強教えるの上手い?」
「フツー」
「先生になんか言われたことある?お家のことで」
「・・・別にィ」
祐也はいつもこうだ。何を聞いても「わからない」とか
「ふつう」とか言うので学校の様子は奈津子には入ってこない。
むしろ近所の同級生の女の子がクラスのことを聞かなくても
教えてくれることが多かったりする。
「祐也の担任のこと、なんでそんなに聞くの~?
佐々木先生なら自転車で通ってたから
家近くなんじゃなーい?」
リビングで漫画を読んでいた小5の姉の美咲が代わりに答えた。
「ふーん、そうなんだ。美咲も漫画読んでないで宿題しなさいよ」
おしぼりを洗剤で洗い流していると
リビングの電話が鳴り美咲が取る。
「おかあさーん、有人くんのお母さんから」
素早く手を拭いて美咲から受話器を受け取った。
「いつも有人、おじゃましちゃってごめんねえ」
「そんな、こちらこそ、いつも遊んでもらって」
奈津子は美咲に早く宿題やるよう、手で上に行くよう促す。
「今日の懇談会、岩井さん、どうして帰っちゃったの~?
8人しか集まらなかったのよ、役員もずっと決まらなくて
大変だったんだから」
「ごめん、ごめん、ちょっと用事あって」
四月最初の授業参観後にある懇談会は
PTAの役員決めがあるのをみんな知っているので
なかなか集まらない。
6年間で一度は役員をやらなくてはいけない暗黙の了解があるので
低学年は比較的早いうちにやってしまおうと思う母親たちが
立候補することもあるが、今年は創立50周年記念で
その資金集めや式典の準備など、いつもの年よりも役員の仕事が多い。
それを知ってか、今日は役員逃れをするように母親たちは
さっさと帰っていった。
「んでね、結局役員あと二人決まらなくて、
私も仕事持ってるけど、岩井さんとだったらやってもいいって
言っちゃったんだよね、ねえ、岩井さん、
今年一緒にクラス役員やんない?」
「え・・・今年はちょっとパス・・・」
冗談じゃない、と奈津子は思った。
せめて専門部だったらあの人と接触はあまりないが
クラス委員になると、担任と一緒に親子レクの準備を進めたり、
懇談会では担任の補助として司会を務めなければいけないのだ。
絶対、あの人とは必要以上にかかわりたくないと思う。
この一年間は祐也の母としてひっそり、何ごともなく
知らんぷりして過ごそうと思っているのに。
「えー。やっちゃおうって。みんな仕事してて
大変なんだから、一緒だったらさ、どっちか用事あるとき
代われるじゃない、岩井さんと一緒だったら心強いし・・・」
「えー、ムリムリ」
その時、奈津子の携帯がタイミングよく鳴った。
「あ、携帯鳴ったから・・。ごめんね、今年はほんとに出来ない」
そう言うと有人の母の声を遮り、素早く受話器をおいた。
携帯は修二だった。
「今、電話中だった?今日さ、飲み会になったから、メシいいから」
「うん。わかった、代行で帰ってきてよ」
携帯をパタリと閉じ、奈津子はふうっとため息をついた。
そしてソファーに深く体を投げ出す。

有人の母・・内田千佳ってなんでこうなんだろう。
どうして自分ひとりでやろうとせず
なんでも一緒にやりたがるのか。まるで中学生が
トイレに友達を誘って行くのと同じだ。
彼女は母子家庭で、仕事しているのに
学校のことにも積極的でなかなか頑張っていると思う。
そういうところは偉いが少し身勝手ではないか。
役員をやるのだったらひとりでやってほしい。
人の都合も考えないで・・・と、だんだん腹が立ってくる。
有人のことも、実は奈津子はあまり好きではない。
家が近所のこともあり幼稚園のときから祐也と遊んでいて
帰りが遅い千佳のかわりに一緒に夕飯を食べさせたり、
雨の日なども家で遊ばせておやつも出したりしている。
それは別に構わないが、最近有人もそれに慣れて、
我がもの顔で奈津子の家に上がり込む。
まるで自分の第2の家のように。
だがそう思ってしまう自分も、なんて心の狭い人間なんだろう、と
少し自己嫌悪になり、そう思われるのもイヤで
千佳にはいい顔をしているのだった。

何日かして、他のお母さんたちと役員を引き受けた、と
千佳からメールがあった。


                      <つづく>









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Last updated  November 16, 2005 01:12:44 AM
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