カテゴリ:小説
1993年12月。 ポケベルで呼び出された修二が 近くの電話ボックスから戻ってきた。 「奈津子さん、ごめん。先にうちに行ってて。 商店街の電飾の調子が悪いらしんだ、 メーカーももう帰っちゃったみたいだから 俺、ちょっとみてくるわ」 そう言って、奈津子に持っていたシャンパンと クリスマスケーキを手渡し、これも、と アパートの鍵をケーキの箱の上においた。 「わかった。待ってるから早く来てね」 「うん、すぐ帰ってくるから」 修二は来た道を駅の方に向って走っていった。 今日はお互い仕事を早く切り上げ、 レストランで食事をした。その後 部屋でささやかにクリスマスをしようと ケーキとシャンパンを買い 修二のアパートに向う途中だったのだ。 今年の春に入社した修二は研修期間を終えるとすぐに 営業に配属され、持ち前の明るさと行動力で どんどん仕事を任せられるようになっていた。 商店街のクリスマスイベントは電飾やステージの発注、 福引きの商品やサンタの衣装を業者へ依頼したり、 MCの手配など、細かいところまですべて修二が動いている。 営業とはいえ、さほど大きな企業ではないので すべて自分たちでやらなければいけない、いわゆる広告代理店の 下請けのような会社である。 アパートの階段はまともに歩くとブーツの音が カツカツ響くので奈津子はそろりとつま先の方で上る。 修二のアパートは今日で3回めだ。 今日は泊まってもいいかな・・・。 静かに鍵を開け中に入り、電気をつけた。 蛍光灯がまぶしいくらいに明るく奈津子を迎える。 すぐにヒーターの電源を入れるがなかなか暖かい風は出てこない。 コートも脱がぬまま奈津子は部屋を見回した。 部屋は雑然としているが片付いていないわけでもなく、 修二の法則があるかのようにCDや雑誌、脱いだ洋服がそれぞれ 一ケ所に積み上げられている。 小さなガラスのテーブルに買ってきたケーキを置き、 シャンパンは冷蔵庫にしまった。 ようやくヒーターから生温い風が吹きはじめ ひんやりとした空気が暖められていく。 つけたテレビの番組はどれもおもしろいものがなく 暖かさが眠気を誘い、ヒーターの前でころりと横になった。 早く来ないかなあ・・・。 ふっと、ベッドの下に目をやると 雑誌の間になにか白い封筒らしきものが見えた。 それを横になったまま引っ張ってみると 修二宛の手紙だった。 女の子から?好奇心で手紙を取り出し、 奈津子は罪悪感も感じることなくそれを 読み始めた。 <つづく> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
November 22, 2005 10:03:56 PM
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