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「　眼差し　」　　　　隔週コラム　　　KUNI


　タンスの片隅に、出番の少なくなったパスポートが入っている。
20代の3分の1ほど海外を旅して周った。ヨレヨレになったパスポートのスタン
プをざっと数えてみると、30ヶ国近い国を100回ほど入出国を繰り返している。
我ながら、よく遊んだと思えた。

　旅ばかりしていたから『どこの国が一番良かった？』といった、質問をよく
聞かれる。だけど、一番があり過ぎて、挨拶程度の会話では到底話しきれ
ない。だから、反対のひどかった話でもしてみよう。

　道を尋ねて一番リアクションが悪いのはパリジャンだ。
アメリカからメキシコのバハカリフォルニア半島の先端まで24時間ぶっとおし
のローカルバスはきつかった。タイの偽警官やメキシコの軍人にも痛めにあっ
た。バングラデュシュのくるぶしまで汚水が溢れた公衆トイレもインドの
孤児院で用意された粗末な食事も失礼ながらひどかった。
モロッコの断食にもまいった。

　でも、一番は母国日本へ懐かしい気分とほっとした瞬間に、同郷である税関
職員がパスポートの怪しすぎるスタンプ数を見て、毎度、疑いの質問を投げか
けてくる時の眼差しが、今まで見た中で一番醜かった。疑うことを職業にした
人の悲しい目だ。