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カテゴリ:読書日誌
野尻抱影『星三百六十五夜』より。 2月1日「声なき聖歌隊」 ヘッセは『夜の感情』という詩で、雲の裂け目から現れた月と星座が、見る見る輝きを増すのを、夜が、青ざめ煙る星の世界でハープを弾いているためだと言っている。星々はそのハープに合わせて歌っているのだろう。 星の静かなきらめきには、いわゆる「ささやき」を思うが、それが忙しくなるほど、声が聞こえそうな感じもしてくる。そして、青い星、黄いろい星、赤い星、その中間色の星は、それぞれ音色も、オクターブも異なっているし、同じ星でも気流につれてきらめきが早くなり遅くなって、ピッチが高まり低まりしているように感じられる。 これを最も思わせるのは、このごろのオリオンの星々である。一等星から五等星まで約四十、微光星まで加えれば約百三十というおびただしい数で、ほとんどが青白い星だが、その光度に応じてきらめきを競っている。そして、代表的な星々が三つ星を中軸として整然たる配列をなしているのは、何か天上の聖歌隊を想わせる。 けれど、これは声なき聖歌隊である。そして、木枯しの吹きすさぶ頃の夜ふけに、激しくきらめくのはもちろん、このごろの霜に凍てた、または雪晴れの黒々とした空で静かにきらめいていて、しかも寂として音一つ聞えないのは、見上げていて何か凄くなってくる。そして、この声なきコーラスは、天の深い深い奥の、人間の窺い得ぬものを、直接に私たちの心に伝えているように思われてくる。 これを科学的に言えば、無数の星々を統一している宇宙の大法則であろう。アインシュタインはその前に白髪の頭をたれた。けれど、目のあたり星空を仰いでは、どうもそれでは満足されない。といって、不信心な私のこと、何か神秘な超自然の存在を感じるという以上には出られないのだが。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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